42 大歳の火

 むがすむがす、年とりの晩に火種ていうもの切らすもんでないと、こういう風に言うたもんだって。ほして姑かあちゃんから、嫁さまが、
「来年から、お前、火起こせはぁ。火焚いで、いろいろなことやれはぁ」
 て、申送り受けで、ほしてまず、
「今日から、まず火絶やさねようにすんなね」
 ていうわけで、太っといぶっこい(株)さ火止めにするようにして、桑の木とか樫とか固いのさ火止めして、まず夜もろくろく寝ねで、朝げん焚き付けんなねなと思っていたら、とろとろっと眠ってるうち、ほこのおかちゃんが、根性われおかちゃんだか、手桶の水みなかけて消してしまったんだどはぁ。火つけんべと思って朝げ行ってみたれば、ぐじゃぐじゃなってで、火つくどこでない。嫁ぁ、
「いや困ったこどなったもんだ」
 何とも仕様ないもんだから、表さ出はってみたれば、向うからふうらりふうらりて、灯りつけて来る人いだっけど。ほごさ行って、
「こういうわけで、火ちょうだいさんねべか」
 ていうたれば、
「いや、火あげっけんど、条件がある」
「なんだべ」
 ていうたらば、
「この棺桶を引き取ってもらわんなね」
 て。はっとたじろいだげんども、火ないには増しだべと思って、
「んだらば、はいつ、上段さ、おあずかりします」
 て、床の間あっどこさ、ほの棺桶あずがって、火焚いだわけだど。したれば、姑かか、不思議しったんだど。
「あれほど、しっちゃかめっちゃか、やっつけだの、よく火焚いだ」
 と思って。
「よく、お前、火焚いだな」
 ていたげんども、そおっと亭主さだけ話したんだど。
「こういうわけで、ゆんべな、棺桶引きとって呉ろて言わっだ」
「馬鹿、棺桶引きとったなて……。引きとってから仕方ない。んだら行ってみんべ」
 ていうわけで、開けてみんべと思って片方(たが)ったれば、ジャラジャラ、ジャラジャラていうけぁ、大判小判がざくざくと出てきたって。どんぴんからりん、すっからりん。
>>竜宮童子 目次へ