39 ヤラ―一口話―

 むかしとんとんあったけど。
 とっても固い人いで、
「あんた、どごさござる」
 て聞くど、
「はい、三上(みがみ)のおんつぁさ寄って、こういう用足して、ほれがら相生(あいおい)さ行って、こういう用足して、ほれがら矢来でこんどぁ、こういう用足して、ほれから共同浴場さ行って、お湯さ入って、こんどぁ、法円寺さ廻って先祖さまさお線香つけで、ほれからこんどぁ、(あづま)の街道廻ってきて、宮脇に伯母いたから、伯母さ、キミダンゴでも買って行って……」
 て、はいつぁ、嘘こくな嫌いで、その日のことぁ全部語る人いだったど。んだがら、はいっちゃ言葉かけるのも大事、かけねも大事。いや困った人なもんだ。ほして、汗出し出し語るわけだど。
「今日は、どさござるっす」
 なて聞くもんだら、頭ええくて、次から次と、とうとうと喋るもんだから、いそがしい時なの、言葉かけらんねがったど。
 ある人教えだど。
「ほんでは、君、正直わがっけんど、言葉かけた人、頭痛くなるんだ、はいつ聞いてるに」
 て、
「ああ、おれもほう思っているんだげんど、まず、少し(つうと)頭おがしいがして、(やつ)さんねくて、困ったもんだずぁぇ、何かええ方法ないか」
 ていうたて。
「いや、あるんだ」て。
「んでは、なぜ言うどええなだ」
 ていうたば、こういう風に教えたど。
「どさござるていうたら、〈ヤラ〉さ行ぐていえ」
「〈ヤラ〉ざぁ、どういうわけだ」
 ていうたらば、
「あそこやら(..)、ここやら(..)」だずも。ほれ。ほれからこんどぁ、ほの人行き会うど、
「どこさござる」ていうど、
「〈ヤラ〉さ行ぐ」
 いとも簡単だったって。どんぴんからりん、すっからりん。
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