35 竜宮童子

 むかしとんとんあったけど。
 あるところに、貧乏しったじさまいで、ちょうど、これがら年取りになって、正月になるていうので、山さ行って門松切って、門松、町さ売りに行ったど。ほしたら何とその日に限って一本も売んねんだど。なんぼ「門松、門松」て触れて歩っても、一軒一軒廻っても売んね。したけぁ、じんつぁ、
「ああ、仕方ない。売んねごんだら、売んねでええ」
 ていうわけで、
「んだらば、竜宮の乙姫さまさ、贈りものでもすんべはぁ」
 て、ひとまるきまるって、ばえっと投げてやった。ほれからずっと何ごともなくていたんだげんども、竜宮からお使い来て、
「竜宮さ来てけろ。たしかにあなたの贈りものちょうだいしました」
 と、こういうわけで、竜宮から使いが来て、
「どうか竜宮さ、一献さし上げっだいから来てもらいだい」ていうわけで、竜宮  さ行って、ほしてすばらしく御馳走になって、
「これは、一月の部屋、これは二月の部屋、三月の部屋……」
 ていうて、四季折々の部屋の風景を見せてもらったりなんかして、
「いや、まず御馳走になって、ええもの見せていただいて、まず、おれも一人身だげんども、周囲の人ぁ、心配すっどなんねがらって、帰らせていただきます」
 ていうわけで、帰って来っど思ったれば、
「お宅に、子どもいねがら、子どもくれてやる」
 ていうて、子ども、丁度、五つ六つのヤロコもらってきた。ところが、
「じんつぁ、じんつぁ、この子どもさ、何でも欲しいもの言いつけろ。何でも出すがら」
「それは結構なもの頂戴して」
 ていうわけで、もらってきて、家さきた。ほして、まず一番みすぼらしい(いおり)みたいなどこさいたもんだから、まず家欲しい。家建てるには敷地いる。そんなわけで、〈土地出してもらいだい〉ほら〈家出してもらいだい〉、ほら〈金出してもらいだい〉〈何出してもらいだい〉〈かに出してもらいだい〉て、たちまち長者さまになった。
 ところが、前には、ほだに思わねがったげんども、何だか立派な家さ住んで、ほしてこのええもの着て、ええもの食ってみっど、何となく子どもがみすぼらしくて仕様ないて。汚ならしくて仕様ないて。
「いまっと、きれいにしろ、こりゃ」
 ごしゃえでも、きれいにしね。
「まず、お湯さでも入って、体でも洗え、まず」
 ていうても、ほだごどしねで、きたないまんまでいる。
 したけぁ、じさま短気おこして、追い出してしまったんだどはぁ。したら、追い出すと同時に煙のごとく、パァッと今までの住み家から何から消えでしまって、元通りの庵の前さ、しょんぼり一人ばり立っていだけって。んだから、人間ていうな、自分が少し栄達したがらって、自分と同じぐらいの、元の人ば、見下げだり、さげすんだりするもんでないということを、いましめだもんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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