30 手なし娘

 むがすむがす、あるところに、何の変てつもない親子がいだったて。して、親子たのしく暮していだげんども、何か、おかちゃんが、ふとした風邪がもとで逝くなってしまった。― 昔は風邪ばっかりでなくて、お産の事故ていうの非常に多いもんだから、まま母ていうな処々方々にいだった。
 おとうさんも若いがったから、後家で暮すわけにも行かねもんだから、継母もらった。
 ところが、そのまま母が、娘ど、ほだえ年令も違わね。ほしてきれいな娘なもんだから、何となく邪魔になって邪魔になって、目の上のこぶみだいで、小姑みだいで、邪魔になって仕様がながった。
 で、おとうさんが用足しに行って、二、三日留守になっどこ見はからって、娘さ、
「おれ、実はあそこの草むらさ櫛落した。何とか一生けんめい、おれも探したげんども、探さんねがら、お前探してきてけろ」
 ていうた。ほこさ行ってみたれば短くて厚い草もさもさと生えておった。目でなど()けらんね。いついつ手で分けて見ねどわからがった。行ってみだれば、その継母が、まず何十匹どなく、マムシ、ほこさ放した。ほしてはっと気付いでみだら、右も左もマムシに噛みづがっで、ほして苦しんでだ。ところがオタメゴカシに、
「あんた、マムシに食っつがっだんでは、命助かっだいか、両方なの食っつがっだな、そのままにしておくど、お前死ぬんだぞはぁ。助かっだいごんだら、手切らんなねんだ」
 て、間もなく手切り落として呉だ。んで、世間体もあるもんだから、傷治るまでは一生けんめい扱った。ところが傷治ったれば、様相一変してはぁ、
「お前みたいな片端者」
 片端者て、ののしらっでなもんだから、何とも仕様なくてはぁ、ほの娘はほこ出て行くわけだねはぁ。
 ほしてずうっと出てはぁ、歩いて行ったげんども喉は乾くし、腹はへってくる、困ったもんだ。「何かないかなぁ」と思ったら、熟柿が二、三個ぶら下がっておった。で、ほこさ行って、熟柿食うべと思っても、手ないもんだから、風でほっちゃ行ったり、こっちゃ行ったりするもんだから、なかなか食んねくていたれば、若侍がほこ通って、
「これこれ、何してるか」「お許し下さい、実はこうこう、こういうわけで……」
 ていうたれば、
「何だ、そんな柿の一つ二つどうということない。食べなさい。わたし取ってやるから」
 ていうわけで、して、
「そういうことだったら、家にまいりましょう」
 て、親切な若侍が家さ()で行った。顔見だら何と器量ええもんだ。ほして家で扱っているうち、おとうさん、おかあさんの許可を得て、娘も気立てええがったもんだから、そこの嫁になったわけだ。いつしか嫁さんが懐妊して、ほして産み月近ぐなったわけだ。
 ところが若侍が参勤交代で旅さ出んなねぐなったわけだ。ほして旅さ出た。その間、おぼこ産しするわけだ。何とかわいい桃太郎みだいな子ども生まっだって。して、父親と母親が、ほんでは、せがれの意見も聞がんなねべていうわけで、何て名前つけだらええがんべと、こうこう、こういうわけで玉のような桃太郎のようなかわいい男の子生まっだんだげんども、お前の意見を聞きたいていう手紙をある人に託してやった。
 その人がずうっと真すぐ行けばええがったげんども、途中でいかがわしい宿さ泊った。
 娘ば出してやったのをわがって、こっちでは、まま母ば離縁したけど。
「お前、手もいだような娘ば出してやるような可哀そうな娘ば出してやるようなは、家さ置かんね」
 て、離縁するわけだ。そうすっど、離縁さっだもんだから、仕方なくて、身を半女郎屋みたいなどこさ落すわけだ。そこにいだら、手紙頼まっだ人が来て、泊って女を買ったわけだべ。して、その女がふところさ手入っで、ねむってから、あれしてみたら、手紙が入っておった。見たらどうやら、自分が追い出した娘の手紙らしい。見たら、玉のような男の子……。
「なんだ、結婚しておったが、玉のような子ども産したなて、にくらしい。何と名前つけだらええべ」なていうの、取って、ふっちゃいですまって、こういう風に書きかえだ。
〈生れた子どもが、鬼だか蛇だかわかんない。占師に聞いてみたらば、大きくなったらお前の命もとるし、家内中をみな殺しにしかねない子どもになっから、早速、処置しなさい〉
 こういう風に書き換えだ。ほして手紙やった。はいつ開いて見っだけぁ、
「何だ、鬼だか蛇だかわかんね。すぐ離縁しろなて、ほだなむごいことあったもんでない、何かの間違いでないが」
 と疑ったげんども、めんめんと、そういう風に綴ってあっから、何とも仕様ない。
〈んでも、とにかく、理由のいかんを問わず、何がどうあろうと、わたしが帰るまではそのままにしておいていただきたい〉
 こういう風な手紙を持たせて帰したど。
 したらまた、この前具合ええがったがして、その宿さ泊るわけだ。そしてふところさ手入っでみたれば、何と、「鬼でも蛇でもおいておけ」ていう文句だ。
 はいつ、またすり換えて、
〈即刻、離縁して、出してやらないと、家内中を皆殺すおそれあるていう占いが出たから、すぐ離縁しなさい〉
 という風に書き直してやるわけだ。そうすっど、それを見たおとうさんとおかあさんが、非常に歎いだ。んだげんども、これは何とも仕様ないていうて、泣きの涙で、まず別っで、結局追い出されるわけだ。
「何てむごいこと、あの人なて、あだえやさしいと思ったのに、ほだな人だべが」
 て、こういう風に思いながら、まず仕方ないていうて、両方の手なくて、子どもおんぶして、ずうっとさすらいの旅続けてきたわけだ。
 ところが、川辺に小さなお観音さまが立っておった。して、そのお観音さまにお詣りでもして行こうかと思って、お詣りすっど思ってだれば、肩からするっと子ども抜けで、川さ流れそうになった。はっと思ったとき、両手が出て、ほして子どもを支えることができた。ほして、お観音さま言うには、
「こっからずうっと行ぐど、こういう所あっから、そこで茶店を出しなさい。ほしてお観音さまのお賽銭、これを元手に持って行きなさい。もうがったら返しなさいよ」
 こういうわけで、お観音さまがらお賽銭を借用して行って、小さな村はずれさ、茶店を出して細々ながら暮してる。
 星移り月変って、杳として三年もすぎてしまった。ほして旦那さんが参勤交代から帰って家さ来てみたらば、何と話が丸っとちがう。
「玉のような、桃太郎のような子どもが出たな、何でお前、鬼子だの蛇子だのていうて、離縁させる」
「おれは、そんなことない。家から来た手紙はこうこうだけげんども、何はともあれ、わたしが帰るまで、そのままにしてでくれというごど書いだんだ」
 と、話が行きちがった。
「んだらば、どこですれちがった」
 ていうわけで、手紙を持ってやった人ば呼んできて、
「お前、変ったことないがったが」
 ていうたれば、
「ははぁ、そう言えば、まことに申し訳ないげんども、おれはあるどころで一泊したとき、何かおかしいことがあった」
 それではていうことで調べてみたれば、そのまま母であったと。「ああ、そうか」ていうわけで、家の方では分ったわけだ。その誤解がとけたわけだ。即刻、まず、手なくて非常に苦労してるだろう。一刻も早く家に連れ戻せというわけで、人を頼んで処々方々探しても、なかなか見つからなかったんだなぁ。ほしてある所までその若侍が行ったら、コマ廻して遊んでだ子どもがあった。何となく母親に似でるもんだから、声かけだら、顔見っだけぁ、ガラガラど、家の中さ入って行ってしまた。ほして、頑なに戸を閉めでではぁ、戸を叩けども、何しても返事ながった。ほして、辛抱づよく、ほこに居で、ほの人を呼んでみたら、
「なんて、あんたていう人は……」
 ていうわけで、みな誤解わがったて。一部始終話して、「ああ、そうであったか」「おまえ、いつから手あるんだ」ていうわけで、今までのこと話し合ってね、ほして、その継母が厳重に処分さっだごど、ほれからほの、お使いに行ったその人も、ほれ、自分のあやまちを詫びで、ほしてほの一家がらくらく暮したけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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