28 ムケノツイタチ

 むがすむがす、ある百姓が、ふっと山芋かごったの見だれば、山芋からひょろひょろと芽出っだけはぁ。
「こりゃ、芽出っだこりゃ。かかさ、降ろさせて、トロロでも食んなねっだなはぁ、こりゃ」
 ていうわけで、かがさ、
「トロロ芋、おろしておけ」
 ていうて、山さ稼ぎ行った。そのころはやっぱりこの辺も鬼がバラバラいで、まずええぐないことばっかりして困っていた。農作物は荒すやら、ほら、女はたぶらかす、ひっかつぐ。ほら、子どもからひったぐる。まず困っていた時代だった。ほして、ほこのかあちゃんが、金オロシで山芋ばゴシゴシおろしった。はいつ、何か今日あたり、鬼のごんだから、
「今日は一日なはずだ。何か百姓だ、うまいことしてきづがんべ」
 ていうわけで、サマからそっとのぞいてみた。のぞいて見たれば、ほの、楽しそうにソリソリ、ソリソリとおろしている。
「ありゃ、何だ。ははぁ、わがった。鬼の角だ」
 ていうわけで、帰って行って、先の方ぶっ欠いでおろしてみたらば、何とおろされるものでない。ほん時、はっと、こう驚いだ。鬼が。
「ひょっとするど、ひょっとするど、あれはきっと、鬼のオチンチンだ」
 そしてオチンチンであるまいかと思って、また来てのぞって見たれば、いとも楽しそうに二人は、御飯にかけで食べていた。
「はぁ、これはまず、人間共ていうな、ゆだんさんね、鬼をぶっ倒してあの丈夫な虎の皮の褌を引っさいで、あそこをとって来て、金オロシさかけるんでがらざぁ、とてもじゃないげんども、ここには居らんね」
 ていうわけで、鬼共は退散して行った。
「あそこなんか取られっど、鬼の攪乱ていうて、攪乱起して、たちまちにして死んでしまわんなね、困ったことだ」
 ていうわけで、鬼共は全部ここがら引き上げて行った。ほして、はいつがほれ、ほこの村の人さ、鬼いねぐなったことわかった。何が原因だべったらば、その原因が分った。ちょうどその時がムケノツイタチだった。んだがら、ムケノツイタチには、今でもトロロおろして食う習慣が残っていんのは、鬼よけだって。どんぴんからりん、すっからりん。
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