22 赤い鯉と白い鯉

 むがすむがす、この地方さ、ほっつがら殿さま来たり、こっつがらも殿さま来たり、いろいろ戦国時代に、殿さま来て、必ずしも善政を敷いた殿さまばりでないがった。
 ここにも楢下城という城があり、三上には鶴巻城、ほら、あの松山城ていうてちょっとここらだけ数えだだけで、三つも四つも城主が居だった。
 ところが、ある城主が非常に性悪(たつわ)れ、性悪ればっかりでなくて、助平でヒヒじじいみたいなもんで、ええ女さえいっど、すぐ、
「上げろ。上げねど手討ちにする、一家断絶」
 こういうこと言うもんだけど。
 この村に器量のええ二人娘がおったど。その十八になる姉の方を、是非城中に上げろ。家の人が困ってしまった。
 ほしたら、その娘が、「わたしには好きな人がいたんだげんど、城中さ上がるぐらいだらば……」て、袖、たもとさいっぱい石入れて、川さ入って死んでしまったど。妹も同情して、その川さ入って死んでしまったわけよ。そうすっど、いつからともなく、その川に目の下五尺もあるような赤い鯉と白い鯉が泳ぐようになった。ほして、はいつ雑魚釣りなんか、鱒つきに行ったりなんかした人が、その鯉見るど、なんか、ゾクゾクと寒くなって、熱っぽくなて、熱出して寝込むようになる。
 て、ある時、上山の殿さまが雑魚釣りに来た。何だかその日に限って一匹も釣れないげんども、次から次と大鯉が追っかけて登ってくる。そしてその二匹の鯉が、よりそって、尾っぽ振れ合ったりなんかして、仲よさそうにしてる。
「いや、ここでは鱒もクキも何も釣れねがら……」
 て、次の上の渕さ行って釣ってみっど、またその鯉が追っかけでくる。
「たしかにこれは、何かあるでないか」
 ていうわけで、その若殿さまが、その部落でいろいろ聞いだ。そしたら、今を去ること何年前に、こうこう、こういうごとあったて……。
「ああ、そうが。前にいた殿さま、非常にええぐないていうことは聞いっだげんども、そういうことあったが。そんではきっと、亡霊も浮かばんねくて、その鯉になって、何とか成仏したくて、人間に訴えでいるんだろう」
 こういうわけで、上山三十八ケ寺、お寺さまみな集めて、大々的に供養したんだど。ほうしたれば、二匹の鯉が昇天して行くのを見たていう人もいるし、見えながったていう人もいっけんども、その供養してから、二匹の赤鯉と白鯉がいねぐなったったてだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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