21 金の化けもの

 あるどころに、とっても恐がり屋がいだった。さびしがり屋だねぇ。
「かぁちゃ、かぁちゃ、我慢さんね。また、したぐなった」
「なんだべ、お前、今したばりで、またしたぐなったなて、お前ていう人は」
 夜一人でオシッコしに起きらんねがった。かぁちゃんが付いで行って呉んなねがった、さびしくて。
 ほしてある時、夜おそくなっどさびしいもんだから、友だちと一緒に用足しに行って帰ってきた。んだげんども、友だちと一緒え家さ入るわけに行かね。途中から別っだ。別っだら、何と、道傍さ、ほら、ぶらっと下がった幽霊がら、脇から、ふさふさとした手出して、ほの、かかる幽霊から、いろいろな幽霊、ほして途中まで来たれば、「シュー」ていうたど。
 首が、切らっだなと思って、ちょっと手、当ててみたれば、血だったて。
「やっ、やらっだ」
 ていうわけで、家さ来て、
「かぁちゃん、やらっだ、首切らっだ」
 ていうわけで来た。
「何、また、あんた、あわでで、どれどれ見せてみろ。どこさ血なの流っでだよ」
「ほら、血出っだ」
 見たれば、それは紅葉の木から、しずくが落っで、ほして紅葉の葉っぱ、ふっついでおったど。赤いもんだから、ほれ、血と間違っていだって。
「ええが、あんた。世の中には恐いものなてないんだ。わたしど一緒に行ってみろ」
 ていうわけで、ほれ、行ってみた。
 ぶらぶら下がって幽霊だと思ったのが、ヒョウタンだのヘチマだのだった。さっさと出て来た幽霊は枯尾花、いわゆるカヤどか(よし)の穂だったて。しずくがピタッと来たのは、切らっだように感じたのだって。
「恐ないものなて、ないんだ。お前、ほの心持ちがそういう風だから、みなそういう風に見えんなだ。ええが」
()がた。かぁちゃん、分がた。今度分がた。恐いものないの、わがた」
 少し足んねぇ者は、これぁ、信じたというど、こだえ恐ろしいものはないもんだ。ある時、庄屋さんさ招ばっで行った。ほして、
「おれぁ、んでも、夜、どっちがていうど恐がりの方だから、早く帰んべはぁ」
 ていうて、帰って来た。ある丘まで来たら、本当に、おかしな幽霊みたいな出た。そしたら、その少し足りない男ぁ、かぁちゃんに、恐いものない、絶対ないて教えらっだもんだから、平然としていた。ところが、一緒に行った友だちの方が伸びでしまった。
「いや、出た!」ていうわけで、伸びてしまったはぁ。誰に言うどなぐ、ほこば昔から、「幽霊が丘」だの「化けものが丘」だていうところだったて。たまたま出ることがあったて言うんだな。そうすっど、
「よし、恐いものなの、ないんだぞ」
 ていうわけで、こんどは、〈かぁちゃんに、おれは聞いだから、絶対恐いものないんだ〉ていうわけで、ほの幽霊さ、そのさびしがり屋の若者が、どんどん、どんどん追い掛けて行ったらば、そうすっど野越え、山越え、どこさ行ぐど思ったら、沼みたいなどこさ入って行った。入って行ったてわかるもんか、とっつかまえでくれるていうわけで、入って行って、つかんでみた。つかんでみて、はいつ上げてみたれば、大きい瓶だったていうんだな。
 んで、その瓶開けてみたれば、何とそこさ大判、小判がざくざく入っていだって。んだがらそのお金が娑婆さ出はっだくて、幽霊になって、たまたま出はったなが、そういうわけで、その人に見つかったんだて。どんぴんからりん、すっからりん。
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