1 俄か長者むかしとんとんあったずま。ある村さ、とても働き者の若い衆いだけど。ところが誰でも同じ事で、何とかしてお金、いや物持ちになって、長者さまになって見だいと、常々思っていだけど。 ある日、旅さ出て見たんだど。したれば、いづしか日がとっぷり暮れで、困ったなぁと思って、ふっと脇を見だら、村はずれに一軒家があったんだど。そごさ行って一夜の宿をたのんだれば、その家の主人が、こころよく引受けでけだど。まずは、何もなくとも夕飯ということで、お膳が運ばれてきた。 お汁 「あるじ、何でザリザリするんだ」 て聞いてみたら、 「味噌が足りないがら、少々壁土を入れだんだ」 ていった。またお汁の実がばかに固い。聞いでみだら、 「ほだなわけないんだがなぁ、新藁を入れだんだがら」 なんと、馬とでも間違っているでないがど思って、 「これこれ、あるじ、魚はないのが」 ていったら、 「あいにく切らしたから、浜さ行って買ってきてけらっしゃい」 ていわれで、買いに行ぐと思ったら、 「お客さん、この辺の人は足元見っから、下から付けて買ってござっしゃい」 て教えらっだど。 いよいよ浜さ行ったれば、漁船が今入ったばりだけど。鯛やらまぐろやら、いっぱいあっけど。 「これこれ、この魚売ってもらいだいんだが、鯛十匹、まぐろ十匹で壱銭でどうだ」 いうたれば、「はーい」て言うて、「鯛十尾、まぐろ十尾で一銭お買い上げ」て、大きな声でいうたど思ったら、 「その他、小鯨一匹、おまけして」 ていって、届けるようにして来たんだど。 ほうして大意気になって帰ってきて、今までのことを話したら、 「なあんだ、お客さん、一銭も出したら、船ごと網ごどと、人足も、鯨など三頭もつけで買うえがったべな」 ていうて、 「この村では五両もった人が一番の長者さまで、代々庄屋さましておいでになるが、あなたいくらぐらい持ってござる」 て聞かれだど。 「たんともないが、三拾両はある」 ていうたら、主人がぶったまげで、おれが悪いようにしないがら、この村で暮してけろ。一両も出すど土地も買われるし、二両も出すど家も建つというわけで、この村に落付くことにしたれば、今度、長者の娘もらてけろ、来年改選だから、庄屋様になてけろなて言 「何ねぼけでんなだ、さっきから」 ていわっで目さまして見だれば、夢だったど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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