29 高だまの庄右衛門高だまの庄右衛門があれだけの産をなさね内、ある朝げ、旦那が起きてみた。そしたら、嫁さんが御飯炊きしったっけ。ほして何となくこう脇見たれば、嫁さんが股間の繁み出していだって言うんだな。ほうすっど旦那が、「ほれ、出して、めんくさいぞ」 なんても言っておれない。ほん時、丁度元日だったて言うんだな。そして一句詠んだんだど。 〈元旦やさても美しい玉手箱〉 て詠んだんだど。 したれば、嫁さま、下の句つけて、 〈よろずの宝これに入るなり〉 て詠んだ。そしたればたちまちのうち、やることなすこと、みな順調に行ってもうかった話で、家内中夜明かすほどもうかったって。はいつ、あたりほとりさみな聞えて、ある家では嫁さ、びりびり、 「お前出してみろ、おれ一句詠むから」 て、ほして、ある人が真似して、 〈元旦やさても…〉 て言うげんども、眺めてみたれば何だかうす気味わるいもんだから、 〈…さてもおそろし大蛇かな〉 て、やらかしてしまったど。ほしたれば嫁さま、 〈よろずの宝これに入るなり〉 て教えらっだんだけども、「大蛇」など出たもんだから、 〈よろずの宝みな呑むなり〉 て詠んだって。ほしたれば呑みぬけ息子出て、身成みな呑まっでしまったって。どんぴんからりん、すっからりん。 |
>>ぬるくす男 目次へ |