20 弘法大師と人身御供むがしあったけど。ずうっと行ったれば、みすぼらしい庵寺が一軒あったけど。ほしてほこさ行って見たれば、みすぼらしい和尚さん出はってきて、一夜の宿請うたれば、 「いや、とてもお泊め申さんね」 「なんたどこでもええから、夜露さえしのがれっどええから、何とか一つお願いしたい」 というたげんども、 「ここの先に小さい村だげんど、村あっから、そこへ行ってお泊りなさい」 というて、ほこで泊めねがったど。ほして仕方ないから、夕暮れになったげんど、その村さ急いで行った。ほしたればそこにも村あっけど。小さい村あって、そこさ行ったら、みんな泣いっだけて。 「なして、ほだえ泣くんだ」 「なして、ほだえ泣くんだ」 て言うたら、 「今夜、人身御供だ。十八歳になる娘上げんなねんだ」 「その代り、わたしば上げて呉ろ」 ていうたら、 「いや、ほだごどすっど田畑荒さっで、何も穫んねぐなって、みんな飢え死さんなねがら、何とか邪魔しねで呉ろ」 ほして、こういうわけで、十八歳になる娘ば人身御供に上げることになったって語んのだど。 「んだらば、そこさ行って、念力で、おれは数珠で悪い者ば引っ叩 ていうわけで、弘法大師さま、そこさ追っかけで行ったんだそうだ。ところが紫雲が空からたれで、何だか得体の知れない化物きたから、念力でその数珠のし上げっど思ったげんど、体がしびっで、何とも仕様なかった。ほして見てる前で、ほの化物が十八歳になる娘ば、バリバリ食ってしまって、大きい骨残したばりで骨がらみ、みな食ってしまったど。 「はぁ、不思議なことあるもんだ」 と思って、ハッと吾に返ってみたれば、何にもないがったて。ほして調べて見たれば、何年か前に、ほこの部落の人が餓死に会って、死に絶えだったて。んだから、はいつの思いが残っていだったか、はいつ見せらっだんだって。んだらばて、元の庵寺に来てみだれば、庵寺もなければ、何もない。やっぱり骨二・三本残っていだって。和尚さまも同じて逝くなっていだんだって。ほいつばねんごろに葬って、ほれから高野山さ登って行ったんだど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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