19 八十尋

 むがしむがし、じんつぁとばんちゃ、子どもいねくて、神さまさお詣りした。子どもが出来たげんど、男だか女だかわかんね。
「はぁ、こいつぁ、こいつぁ、お願いしかた一つ足りなかった」
 て言うわけで、
「男の子どもにして呉らっしゃい」
 ていうわけで、お願いした。で、いろいろ、じんつぁとばんちゃの経験から、男のチョンチョコが四寸ぐらいでは短かいから、八寸ぐらい、倍ぐらいにお願いすっかていうわけでお願いしたところが、ばんちゃ、「八寸、八寸…」て何回も言うたし、じんつぁも「八寸、八寸…」て何回も言うたの、はいつ皆聞き届けて()で、八十尋ばりになってしまったど。
 そうすっど、ほれ、息子もだんだえ大きくなって、一丁前なって、ほこら用達したり、何かえするようになったりして、ほこら歩くには籾俵さ入っで背負って歩ったど。
 ところがある日、春の、春風抬頭としたこのうららかな日、ずうっと町さ用達しさ行く途中、大きい椎の木があって、その椎の木の下で、あんまりええ日なもんだから、一服つけて、こくりこくり眠むかけしてしまったって。気分ええもんだから、そのチョンチョコ殿ぁ、スルスル、スルスル伸びて行って、ずっと木の上まで伸びて行った。
 ところが、春なもんだから、天狗もこっくり、こっくり眠ぶかけしてだ。ちょっと天狗、気ついて見たら、鼻先さ自分の鼻と似たような品物、ひょいっと出てきて、ぶっ魂消て、ほの天狗が持ってた鳥の羽根のウチワ落した。そして下さ、ヒラリと落っで、そこで息子が目覚まして、
「ありゃ、なんだべ。こだい、まずはぁ、伸びて行ってしまった」
 て、ほの天狗のウチワであおいでみたれば、だんだえ縮まって、ほして丁度ええどこで、はいつ止めて、ほして用達し行ったな、籾俵ぶち投げて喜んで家さ帰って来たど。どんぴんからりん、すっからりん。
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