15 ほたる長者

 むがしむがし、ある村に貧乏でも、とても正直で働き者の若夫婦いだんだけど。
 どういうわけか、二人の間には子どもがいねがったけど。んで、何とか子どもが欲しいていうて、神さまさ願かけでいたんだったど。ところがその満願の晩、ほたるが(まる)ばって玉のようになって集ばるところあるんだけど。
 ほして二人して大急ぎで、ほごさ行って見だれば、女の赤子が捨てであったんだど。
「はぁ、これは神さまのお授け者にちがいない」
 て、喜んで拾ってきて育てだわけだ。
 ところがまた不思議なことには、毎晩、草木も眠る丑三つの頃、民家の軒場が三寸さがる頃になるずど、ほたるが玉になて集まる。なしてだべぇと思って行って見て、またおどろいた。ほごがら、コンコンと湧出ていた泉はただの水でなく、とても甘口の酒だったんだど。
「これは重ね重ね、ありがたいことだ。神さまのおかげさまだ」
 ていうわけで、二人で汲みはじめたれば、あらら不思議、ほたるが三々五々と散って行ぐ頃、ほの酒がただの清水に変るんだけど。んだから真夜中だけ酒で、昼間はあたりまえの水だったわけだ。また誰にも気付がんねがったわけだ。
 古いわらべうたに、
  ほたるさんさがらっしゃい
  こっちの水は甘いぞ
 ていうわけで、なるほどて思っていだんだけど。
 真夜中に酒を汲んで売り始めだれば、その酒のうまさにたちまち銘酒として大繁盛したんだど。ほしていつの間にか旦那さまになって、誰言うとなく、ほたるば大事にしているもんだから、「ほたる長者、ほたる長者」ていうようになったんだけど。
 さて、それがら星移り月が変って、娘もめきめき器量よしになって、酒の味のよいこともさることながら、娘の器量にひかれで酒買いに来る若者でひっきりなしだけど。
 ちょうどほの頃、殿さま、ほの噂を聞いで、ほの娘ば、
「余の(もと)に上げろ、ほうすっずど、お前を代官に取立ててつかわす」
 て言わっで、名誉に目がくらんで、娘の幸福など忘っでしまって、一方的に返事してしまったんだど。
 ところがいよいよ輿入れの日は、月の明るい十五夜の大安の日ていうわけで、殿さま、(とも)そろえて、篭を仕立てて来てみたれば、娘の姿がどこにも見えねがったんだどはぁ。村人はみんな十五夜お月さま、お空さ連れで行ったんだべなて、こそこそと語っていだっけど。ほしてまた、ほたるの集まる酒の泉も出ねぐなってはぁ、もとの貧乏夫婦が、ぽつねんとうら底に立っていだっけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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