11 栃眼

 むがしむがし、ある村にとっても正直で、働き者いだんだけど。なんぼ働いても働いても、貧乏でなかなか楽にならなえんだけど。でもお観音さま信心で、毎日お観音さまお参りは、かかさねんだけど。
 ある晩、夢枕に立って、私の屋根がら飛び降っでみろて教えだんだど。朝げ早ぐ屋根から飛び降っでみだれば、(まなぐ)片方、どさがふっとんでしまた。ようやく手探りで拾って入っだれば、反対に入れでしまったところが、腹の中みな見える。五臓六腑、ちょうど今だら時計の中みだい、それぞれ動いているのが見えてきた。
 したれば、そのことが村中の評判になって、
「おればも見てけろ、おれな、どごが悪くないが…」
 て、いっぱい集まってきて、見てもらう。特に五十歳過ぎの人が多い。ほだえしているうち、いつの間にが金がたんまり溜って、お金持になったすまなぁ。そいづ常がねうらやましく見っだ隣の親父、なぜして見るぐなったて、しつこく聞くので、金も溜めたしはぁ、隣の親父さ教えてやった。
 次の日、早速隣の親父、お観音さまの屋根がらとび降りたところが、両方とも目飛ばしてしまった。ほして両方の手で探してみたれば、あっけど。はえづいきなり入っだれば、目でなくて(とつぷ)だったど。んだから今でも、役者セリフ間違ったりするずど、「トチッタ」なて言うなだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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