1 まけ兎むがしむがし、兎ど亀ど、向いの山まで走りくらしたど。ほうして兎が昼眠して、あの、のろまの亀さんに敗げた。ほの話が兎村の村中さ聞えでしまった。そうするずど、兎村の庄屋さん、かんかんに怒って、わが兎村の名折れだて、みんなの前でしこだまごしゃがっだ。 「ちょっとのつもりだったげんど、春先であまり気持がええがったもんだから」 申しわけねぇって怒らっだ。 ちょうどその頃、隣の村の一匹狼がら兎の小娘を、おれんどこさ出せ、兎身御供にするて言うてきた。兎村ではみんな心配した。ほんどき、先の敗け兎が、 「庄屋さま、おればやってけらっしゃい」 て、名のり出だんだど。 「どうせ、おれなど村にいても、のけ者だから、人身御供になるはぁ」 て言うて、ほうして一人で一匹狼のいる岩山まで行ったんだど。したれば狼が舌なめずりしながら、待っていだけどはぁ。 「ああ、よくきた。小娘は」 「はい、やがて着ぐ頃だげんど、みんなに送らっでお別れなどしてきたがら、少々遅っで来る。私が道案内して来たんだ」 「そうが、そうが」 「で、狼どの、その一番高い岩さ登るど、見えっかも知んね」 ていうたれば、早く食だいくて我慢さんねくて、岩の上さ登った。ほの時、す かさず後足で力いっぱい兎さんが狼ば蹴ったんだど。 したれば、谷底さ狼が落ちで死んでしまったんだどはぁ。ほれから誰も敗け兎て言 |
>>ぬるくす男 目次へ |