58 ダバロク

 むかしとんとんあったずま。
 やっぱりこの酒改め役人がある村さやって来た。ほうして、じんつぁばりいだどさやってきて、
「じんつぁ、じんつぁ、どぶろく造っていねが、ここらにどぶろく造りしったどこないが」
「ありあんす、ありあんす」
「ある?案内すろ」
「はいはい」
 て言うて、じんつぁ、案内するふりして、フゴとヘラ廻してしまった。ほうら、村中パッパ、パッパと置くことなしで、裏口から裏口、裏口からまた裏口さ、はいつは渡って行って、喋るも何にもしねで、早いこと早いこと、ほの廻んなの、タッタ、タッタと村中廻る。
 ほうしてずうっと上の方さ行って、
「どこの家だ」
「ほこの家であんす」
「ほう、あそこの家で造ったが、名前何て言うんだ」
「あそこは長兵衛さんの家であんす」
「長兵衛か」
 帳面さつけで、ほしていきなり開けだれば、職人といっぱいして造ってだ。一生懸命造ってだ。
「何だ、何造りしった、こりゃ、じさま。ドブロクはどこさあんなだ」
「何、旦那さま、ドブロク?ドブロクざぁ、ここらで一人も造る人いねっだな」
「なんだ、ほんではこの造ったなは…」
「こいつぁ、お百姓だの、馬喰が必要な、ダバロクであんす」
「なに、ダバロク、ダバロクでは仕様ないな」
 麻縄なって、昔はきりっとクツワんどこ、ええあんばい入るようにして、馬ば引張って歩くようにするダバロクていう駄馬さ使うクツワがあった。ほのダバロク拵えしったどこさ連て行った。ドブロクとダバロク、ええあんばい取り違えて()で、ほの部落も無事だったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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