56 酒飲み

 むかしむかし、あるどこさ、酒好きで朝のんでいたい人、いだんだけど。ほして田でも畑でも、
「あそこは何升、あそこはなんぼがな」
 て、みな酒に見えるんだど。売ってやるもの、米でも、「これは何升がなある。何斗がなある」て、銭でなくて、みな酒に見える人いだったど。
 ある時、となり村さ用達しに行って、酒御馳走なったげんども、つうと足んねくて、いそいで家さ来て、
「こりゃ、こりゃ、酒出せ」
 て、言うた。
「うーう、酒ばり飲んでけずがっから」
 ていうわけで、母親と奥さんが、米のとぎ汁の白水飲ませた。茶碗さ汲んできて飲ませたれば、ドクドク、ドクドクて飲んでいだっけぁ、
「いま一杯」
 また白水汲んできて飲ませた。ドクドク、ドクドクて、たちまち飲んでしまって、「もう一杯」て言うた。
「こだえ飲むだいのだら、仕方ない、かかぁ、汲んできて飲ませろはぁ」
 て、ばんちゃ言うたった。ほして仕方ない、昔はほれ、今みたい清酒なてない濁酒(どぶろく)なもんだから、濁酒汲んできて、三杯目もって行ったらば、
「ああ、やっと酒の味してきた」
 て言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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