47 貧乏人の大金むかしむかし、殿さま、腹痛くしてバダバダ、バダバダ腹痛くした。誰も治さんね。医者も典者もかなわね。んで殿さま、「おれば治した者には、望みのものやる」 触れ廻した。ところがある家に伝家のすばらしい薬草があった。はいつが入山から、ほれから手前山から、沢から峯から、いろいろ、七つ八つの薬草ば二斗もある水ば、トロリトロリと二合ぐらいに煮つめて、ほしてはいつ飲むんだら、何た腹痛でも治る。こういう風な薬あったもんだから、はいつ殿さまさ持って行って、飲ませたれば、胸の溜飲が下がるようだて言うた。ぐうって音立てて、腹鳴りして、たちまち腹治った。 「いやぁ、楽になったもんだ。んでは欲しいものは何だ」 て、こういう風に言うたらば、 「いや、おれは今までいろいろしてきたげんども、貧乏ばっかりして何ともなんねがった。お殿さま、銭いただがんねべか」 「いや、ほだなお安い御用だ」 ていうわけで、何がしの銭もらって、ほして家さ帰ってきた。ほの金ったって、御褒美としてける銭だから、百、二百の銭でない。今だら億ていう金だったど。ほんでどさしまったらええが分んね。天井さ下げても、こりゃ盗まれんべし、タンスさ入っでもねらわれんべし、どさ置いたらええがなぁて考えた。 「ははぁ、んだ」ていうわけで、縁の下さぶら下った。ほして稼ぎ行ってきてはぁ、はいつ竿でぱっぱっぱっと払ってみて、あっかないかさぐってみて、「あるある」て安心しった。また稼ぎに行ってきてはぁ、はいつさぐんの、誰か見っだ人いだ。ほしたけぁ、 「ははぁ、持ちつけね銭持ったから、家の中だと取られっどなんねど思って、あだんどこさぶら下げったな」 ていうわけで、誰かほいつ盗って行ってしまったんだどはぁ。ほして、ほだごど知しゃねで、ほの人ぁまた山から来て、竿でさぐって見たれば、ないがったど。ほしたれば、がっかりすっかと思ったれば、 「ああ、これで安心した」て言うたど。貧乏人が持ちつけね大きい銭なの持っど却って気苦労が余計なだけだ、銭なの右から左へ、ほだえバガバガ使われるものでもないし、「ああ、ええがった」て、銭なくてええがったていうたけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
>>蛤姫(上) 目次へ |