44 天人女房

 むかしむかし、漁師が釣竿かついで釣りさ出かけた。ほして三保の松原ていうどこまで行ったら、なんだかきれいな香りがする。
「こだな匂いかいだことない、なにだべなぁ」
 と思って匂いのする方、ふと見たれば、ほの海できれいな若い娘が、七人ばりすいすい、すいすいと水浴びしった。ほして、
「ああ、天人ていうな、ああいうなだかなぁ」
 て思って眺めっだ。ほだげんども天人、おれ見てきたなて言うたて、誰も本気すねべど、こりゃ、何か証拠ないべかと思って、ほこらここら見たれば、ほの松の木さ衣がかかってだ。
「ははぁ、これもって行って見せれば、みんな本気するわけだ」
 ていうわけで、がらがら行って着物一枚とったわけだ。ところが人間の気配さ感づいたほの天人が、海から上がって次から次へと着物きて天さのぼって行ってしまった。んだげんど一人の天人だけは、ほの着物取らっで(のぼ)らんね。ほうして、
「どうか一つ、ほの着物返してけらっしゃい」
 さめざめと頼むもんだから、ここらのやさしい漁師が、
「んだら、返す。んだげんども天人というのはすばらしい舞上手ときいでる。何とか舞を見せて呉ねが」
「いゃ、おやすい御用でございます」
「んだげんども、おれがこの着物渡したら、すうっとお前逃げて行ってしまわねえが」ていうたら、
「天人は決して嘘つきません」
 ていうた。ほしてほの着物渡したれば、すばらしい舞をまいながら、ゆうゆうと天に吸い込まれるように絹糸のように細くなるまで舞をまって、すうっと居ねぐなったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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