43 八郎太郎

 むかしむかし、南部の九戸(くのえ)ていうところに、八郎太郎ていうないだんだけど。ほの子どもは体格もええし、中々利口だった。ほして毎日、田舎なもんだから、山さ遊びに行ったり、野原さ遊び行ったりしていた。
 ある時、喉乾いて喉乾いて仕様ない。手で冷たい泉ばすくって飲むべと思ったれば、手さイモホリ(イモリ)入ってきた。
「ああ、かっじぇげだな(こんなつまらぬ)イモホリ、何だ」
 ていうわけで、ぶん投げた。
 次の水すくったら、またイモホリ入って来た。三回も四回も同じこと始まった。
「ほんでは仕方ない。喉乾いで何とも仕方ない」
 て、飲んでみたればうまいこと、うまいこと、どくどく、どくどく飲んでしまったうち、何だか体大きくなってはぁ、背なの何十倍となってしまった。ほして鳥の巣などみな手で届くようになった。木なのシンポエ()だたり(なん)かえするい。
「へえ、不思議なこともあるもんだ。んだげんども何だて喉乾いて喉乾いてなんね」
 ほっつの泉あっべ、こっちの川集め、モツコ山なていうの崩して堰止めて飲んでも、何とも仕様なくなった。ほして立っているうちは人間だげんど、しゃがんでみっど何だかこの湖の中に蛇いだみだいだ。おかしいなと思っていたれば、自分の姿蛇になっていだんだけどはぁ。
「はぁ、こりゃ、おれぁ蛇になったんだなぁ、んだらば仕方ない、ここらさトグロ巻いて暮すかなぁ」
 と思って、()っちゃこい泉の水飲み飲み暮すかと思って、水飲みはだたれば(のみ始めたら)、ほこがダダダーッと落っでって大きい湖になったなが十和田湖だけど。ほして、蛇のまま沈んでしまって、ほれから何日(いつか)何十日経ったかわかんねげんども、南蔵坊ていう神通力のあるお坊さんが、通りかかったれば、何だか十和田湖に何か秘密が隠されているようだ。不思議なことあるようだていうので、神通力さ照らしてみたれば、八郎太郎が蛇の姿で中さ沈んでいる。こりゃ助けねくてなんねていうわけで、法力でもってお祈りしたれば、八郎太郎がまた人間の姿に返った。喜んで、
「いや、南蔵坊さま、おかげさまで助けらっだ」
 ほんどき、南蔵坊が、
「ええか、お前は人よりも体も大きいし、体格もすばらしいから、人間のためになるようなことしなさい」
 て()っで、「はい、そうします」ていうわけで。ところが別れっどき、その南蔵坊が、
「お前に(かね)のワラジ()っから、金のワラジ切っだどこがお前の住み家だ」
 そういう風に教えで、かき消すように見えねぐなった。ところがほれ、八郎太郎がシズク石川なて、今もあるんだげんども、ほこは先に、川、ほっちにもこっちにもあって、大変あばれてひどいのば一か所さ集めて()だり、ほっち改修したりしていた。ところがそこら大変気に入ったもんだから、
「ここらで暮すかなぁ」
 と思って、んだげんど金のワラジ切んね。おかしいなぁ、金のワラジ切っだどごで暮せて()っだんだから、金のワラジ切んねのでは仕方ない。どれ、んだらこすぐって切らして呉っかていうわけで、金のワラジ、ジャガジャガこすった。ところがとんな事始まった。ほの音聞いだけぁ、十里四方の犬だ、みなぶっ魂消て、ほして遠吠え始めた。集まって来て、ウワーン、ウワーンて、はいつで八郎太郎も何とも仕様なくて、ほっから逃げて、西の方西の方へて、ほして海岸端まで走って行った。ほしたれば、丁度ほこでワラジ切ったっけて。ほこが今の八郎潟で、ほこさ八郎潟の主になって、またそろりそろりと入って行った。八郎太郎が入って行ったから、今でも八郎潟て言うてる。
 時同じうして、ほの頃、やっぱりきれいな(ひな)には稀な娘さんいだったて。竜子(たつこ)ていう名前だった。ほの人も今よりまだ泉、山のきれいな泉で顔洗ったり飲んだりすっど、まだきれいになるて()っで、山さ行ったれば喉乾いで喉乾いて、ほれで何とも仕様なくて、堰止めでのんで、居所定めたところが、田沢湖だったって。して田沢湖の竜がいわゆるタツ子姫で、十和田湖さ居城置いたのは、八郎太郎だった。それが年一回会う。ほの姿見たことないげんども、田沢湖の水が真っ白になることがある。それが八郎太郎とタツ子姫の会う日だと、昔の人は言うたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>蛤姫(上) 目次へ