42 千里の靴

 むかしむかし、三人の子どもいたおかちゃんがいだんだけど。男の子三人持って、おっつぁんに先立っで何とも暮すに暮さんね、みな一家心中する以外にないと困ったもんだと思って、んでお母ちゃんが、
「仕様ない、三人ば山奥さ捨てでくんべはぁ」
 ていうわけで、三人ばだまして山奥さ()で行って、
「ええが、お母ちゃんがあそこらにええ梨の木あっどこ知ってだから、梨もいで来て呉っから、お前だこの(たいら)に待ってろなぁ」
 て、お母ちゃんがさっと逃げてきた。なんぼ待ってでもお母ちゃんが来ない。そのうち暗くなってしまったはぁ。ほのうち二人は泣いでしまったはぁ。兄んつぁん二人ぁ、したらば一番下の舎弟は泣かね。
「ほだな泣いだってわからね。宿でも探して泊まるより他にないっだな」
 て言うた。ほんではて、探してみたれば、少し下がったところに、ぼやっと灯り見えっけ。
「んでは、ほこさ行って見んべ」
 て行って見たんだど。したればほこに年寄ったばんちゃいで、
「泊めてけらっしゃい」て言うたれば、
「いや、泊まるなのええげんども、ここは鬼の屋敷だ。まもなく鬼帰って来っから、お前だ食れっどなんねから、すぐ井風呂さ入ろ」
 て、空井風呂さ入って蓋しった。ほだえしてるうち間もなく鬼は山から来た。
「人くさい、人くさい、何だか人くさいな」
「ほだほだ、いま三人来たけ、んだげんど何だか、鬼くさいなて言うて、鬼来っどなんねなて、ここから逃げて行ったずはぁ」
「よし、逃げて行ったごんだら仕方ない、んだらば、万里の靴では(とか)くまで行き過ぎっから、千里の靴出せ」
 ほうして千里の靴出して、ほこらここら探す勘定だ。ほして出はってってしまった。出はって行ぐすぐ千里ふっとんで行ったずど、すぐ戻らんねべていうわけで、そのばんちゃが、
「ええが、お前だ、今すぐ逃げろ、ほんねど鬼につかまっから」
 ていうたど。三人はどんどんと逃げた。()んつぁんだ二人は足すくんでしまった。ほしたれば鬼、ほさ眠ったけぁ、あんまり活歩して歩いたから、くたびれてしまった。ほしてほこさすばらしいイビキ立てて眠った。
「よし、んではお前だ、ここにいろ」
 て言うて、一番舎弟は、その千里の靴ぬがせだんだど。片方靴脱がせだれば、「ううん」なて()(がえ)りした。兄んつぁだ、「いやいや」なて、殺されっど思っていた。ほんでも起きね。ほして両方脱がせた。ほしたけぁ、ほの一番()っちゃこい舎弟は、
「あんつぁだ、おれさつかまって()ろ」
 ほして二人の兄ば背中さつかまらせて、千里の靴履いで、自分の家さファーと戻ってきた。ところが、ほれ、おかぁちゃんが捨てるには捨てだげんど、心配して心配して御飯も食ね、夜も寝ねでいたったて、行って()て来んなねと思ったげんど、鬼婆も恐いし、なぜすっかと思って心配しったどこさ、三人がもどって行ったから喜んだ。
「ああ、ええがった、こんどからお前だば、(なん)た苦労しても捨てねはぁ」
 て言うて、ほの話はずうっと拡がって、一足千里行ぐていうなで、ほこの子どもだ、飛脚頭に殿さまから頼まっで、なったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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