37 狸の八畳敷むかしむかし、ある山寺に和尚さん一人でいで、ほしてほの友だちに与平さんていう人いだ。二人はとっても仲よしで、ほして与平さんが行かねど、お寺さま来たり、和尚さま行かねど、与平さんが行ったりして、仲よくしった。ある晩、ほの与平さんが御飯どき来た。めったぇ(めったに)御飯すぎてからばり来るんたげんども、て思っていたげんど、仕方ない御飯時きたもんだから、御馳走したり何かえしった。ほだえしているうち、「御馳走さま」して行った。ちょうど後さまた与平さんが来た。 「なんだ与平さん、いま御馳走してやったに、何か忘せだか」 「忘せだかなて、和尚さま、おれ今来たばりっだな」 嘘つくような与平さんでもない。 「へえ、不思議だな、ははぁ、さては分った。与平さん、こいつぁ、狸の仕業だ」 「ほうか」 与平さんも心配して、 「和尚さま、狸なの食べらっだり、いじめらっだりすっどなんね」 と思って、次の晩、かげの部屋さ、そっと様子見にきた。ほしたれば、ほれ、前の晩御馳走になっていったな、忘せらんねくて、また狸は次の日やってきた。ほして与平さんが見たれば、正面から見っど自分とそっくり。 「あららら…てやんなねぐらい似っだ」 んだげんど、脇から見っど、ほの襖さ影うつるの見っど、尻尾と狸の姿、そっくり写らんなだど。自分の姿に化けではいっけんども、影プチまでは化けらんねなだて、そういう風に見っだ。ほだえして話はだんだぇ進んでいるうち、和尚さんも、とにかくこりゃ、あやしいなてわかったもんだから、囲炉裏の中さ石二つ焼いっだ。いざっていう時、その焼き石ぶっつけて呉る勘定で焼いっだれば、だんだぇ話はいろいろになって、進んで行った。ほだえしているうち、与平さんに化けた狸、だんだぇ下の方さ手やったど思ったら、するすると金玉伸びて行って八畳敷いっぱいなるようになってしまって、いまつうとで、あわや和尚さまが八畳敷の毛皮の風呂敷でさらわれようとしたとき、和尚さんがすかさず真赤ぐ焼げっだ石、十能で風呂敷さちょっと上げて呉だ。したればキャーッ、アチチチ…ていうわけで、もんどり打って狸は逃げて行ってしまったど。ほして与平さんがほこさ出はって行って、 「いや、和尚さま、ええがった、ええがった」て、 「いや、本当のおれだど、すばらしく火傷 ていうたけど。風呂敷出した狸ば焼け石でやっつけたけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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