31 狐と田螺むかしむかし、田んぼで狐と田螺が論判になったけど。「狐なて、早いようだげんど、田螺から見っど、遅い」 「べらぼう。ほだな足もないものから見っど、おれぁ、一跳ねだって、お前だの半日ぐらい跳ねるっだな、とんでもない」 「んだらば、駈けはし....すっか」 「ええっだな」 田螺は、 「ええか、狐さん、おれがヨーイ・ドン掛けっから、ほんどき、お前一緒に走んなだぞ」 「ああ、ええ、ヨーイ・ドンなど、どうでもええから」 「んだら、今から走んぞ」ていうわけで、二人はほこでスタートラインについたわけだ。ほしたけぁ、田螺はいきなり狐の尻尾 いや、狐は、「どうせ、おれにはかなうまい」と思ったげんど、競争だから、田んぼ道走った。スタコラ、スタコラ走って行った。ほして向うの決勝点どこまで行って、くらっとひっくり返って、 「大体、どこら走って来んべ」 と思って、まず見てみっかと思ってうしろ向きになって見た。ほん時田螺はちょえっと離していて、なんぼ見ても見えね。一生懸命キョロキョロていっどき、 「おう、狐君、狐君、こっちだぞはぁ、お前おそいもんだなぁ」 て言うけぁ、はっとこっち向いたけぁ、田螺いた。 「いやいや、負けました」 て言うたて。んだからあんまり自慢するもんでないもんだど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
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