23 嫁と卒塔婆むかしとんとんあったけど。ある時、すばらしい旦那衆で、ほして丁度そのとき、娘のムカサリだったど。 「はぁ、ムカサリぉー、ムカサリぉー」 ていうわけで、タンスは行く、ほら仲人に手ひかえらっで、ムカサリ(嫁)行ぐ。したればそん時、急に空が変ったと思ったれば、薄暗くなって、黒いトバリがすうっと降りて来たと思って、はっと気付いてみたれば、ムカサリはさらわれでいねんだどはぁ。 「はぁ、困った、どさ行ったべ」 なんぼ探してもいね。 「ほんでは何とも仕様ない」 ていうわけでいたげんども、おかあちゃんだけは何ともあきらめらんねくて、 「んだらば、おれ、探しに行く」 て、次の日探しに行った。野越え山越え探しに行った。ほうしたれば暗くなって何とも仕様ないから、そこらさまよって歩ったら、一軒の庵寺があっけ。んでほの庵寺さ、 「今晩は、何とか一晩泊めてけらっしゃい」 て言うたれば、そこさ尼さま居で、「泊らっしゃい」ていうわけで、大変厄介になって泊った。ほして次の朝げになってみたれば、庵寺がなくて一枚の卒塔婆ば枕にして眠 「ありゃ、おかしなこともあるもんだ。一枚の卒塔婆だった、こりゃ」 と思って、んだげんど何だか夢うつつに昨晩 「不思議なこともあるもんだ」 ほだえしているうち嘘であろうと何であろうと、自分の娘探がさんなねなだから、教えらっだ通り、ほの時間待ってで、十二時頃行ってみたれば、やっぱりスヤスヤ眠っていだっけ。ほしてその唐獅子眠ってだどこすうっと通り抜けて行ったれば、カラトン、カラトンて、この機織りしった。 「あの織り音はちょうど自分の娘の織り音だ」と思って行ってみたれば、やっぱり娘だっけて。 「あらら、お母さん来てけだが、いま間もなく鬼来っから、石の唐戸さ入っていらっしゃい」 ていうわけで、石の唐戸さ入って、ビシンと蓋しった。間もなく鬼帰って来た。ほうしたけぁ、ほの鬼は家の前の桜の木見っだけぁ、 「あっ、桜二輪咲いだ。いま一人、人来たな」 娘さ聞いだ。娘は、 「いやいや、ほでないのよ、あの、実はきっと、あなたの子どもば、おれの腹さ宿たんだかも知んね。んだから二輪咲いたんだべか」 「ほんではめでたい」 ていうわけで、鬼だ酒盛り始まった。 「子ども生れるなて、めでたいごんだ」 て、ジャガスカスカ酒盛りの用意して酒盛りはだった(始まった)。ほしてある程度酔って来たら、 「ああ、おれも今日は酔うたから、今夜は寝る。おれは木の唐戸さ入って寝っから」 て、ほして七枚の蓋あけて中さ入って行って、七枚の蓋かけて、七つの錠かけて寝た。ところが、逃げん今だと思ったれば、やっぱりさっきの尼さま現わって、ほして、 「材料小屋さ行って、んだらば万里の車で逃げっか、千里の車で逃げっか、一走り一万里、一走り一千里ていう車ある」 したれば、 「いやいや、よしなさい。そんな車で逃げっことない。舟で逃げなさい」 て教えだ。 「ほんでは」 というわけで、二人ぁ舟さとびのって、一生懸命、わっしょ、わっしょと漕いだ。ところがある程度寝っだけぁ、鬼ぁぐらりと起きて、ばらばらと木の唐戸から全部蓋を押しのけて、出てきて、 「よしよし、よくも逃げたな、鬼どもみな舟さのって逃げたとこの水飲んでしまえ」 ていうわけで、片端から、ズハズハ鬼どもが皆飲んだれば、今までずうっとこっちの方まで漕いできた勘定が、矢のように吸い込まっだ。どんどん、どんどん鬼の方さ行った。したれば、さっきの尼さまが、 「鬼は、一番おかしいのが、ヘソ見っとおかしくてなんねぐなるんだ、人間のヘソ見っど、とてもとても笑わねでいらんねぐなっから、早くヘソを出しなさい」 ていうもんだから、二人してヘソを出したれば、見っだけぁ、一人の鬼は、アハハ…て笑ったれば、他の鬼もみな吹き出して笑ったけぁ、飲んでだ水、みな吐いてしまった。ほの勢いで、こっちの方まで着いてしまった。難なく無事にこっちゃ着いた。 「娘もおれも命助けらっだった。あの尼さま、んだら、どこへ御座ったべ」 と思ったら、尼さま、向こう岸に待っていだっけどはぁ、ほして、 「尼さま、おかげで助けらっで」 て言うたらば、 「おれは尼さまでも何でもない。野中のたった一枚の卒塔婆だった」んだげんども、毎年新しい卒塔婆に変えてけること約束したれば、その尼さま、すうっと居ねぐなったけど。どんぴんからりん、すっからりん。 |
>>蛤姫(上) 目次へ |