10 叺狐

 むかしむかし、じんつぁとばんちゃ暮してだんだけど。ほのじんつぁていうな、若い時、山さ行って片一方の(まなぐ)、木の端で突っついて、目っかち盲目になったんだけど。んだげんど性格が明るくて、とっても歌は上手、踊りは上手、気持がええもんだから、ほっつこっつさ頼まれる。ほら、御祝儀があった。年祝いあったていうど、
「来てけらっしゃい、来てけらっしゃい」
 て頼まれる。ほしてほどほどに酒も好きだった。
 で、ある時、遠くの町の旦那衆さ頼まっで、やっぱり踊りおどったり、歌うたったり、座持ってけろていうわけで、頼まっで行った。ところがそのじんつぁにも一つの癖あって、少し酒飲みすぎる嫌いがあった。飲みすぎっど、どこここなく、ばったり倒っで、ほこさ眠ってしまうがった。
 で、冬なんか寒くて凍え死したりすっど悪いと思って、ばんちゃが時どき迎えに行んかった。
 ある日もやっぱり、ばんちゃが、帰りが遅いので行った。ほしたら向うから酒酔っぱらった格好で、ふらりふらりとやってきた。
「はぁ、じんつぁ、じんつぁ、今帰ってきたか」
「はい、今もどってきた」
 ほして家さ入ってみたれば、何だか様子がちがうほでによっく見たれば、家のじんつぁ、右の目悪れな、そのじんつぁ、左の目悪れがった。
「ははぁ、これはひょっとしたら、原っぱの狐だかも知んね」
 て言うな、ばんちゃ、ピーンと頭さ来たもんだから、
「じんつぁ、じんつぁ、今日は寒くないようだか」
 て聞いた。
「いつもだど、ああ寒い寒い、何だか狐抜けるようだ、酒抜けるようだて、俵さ入っからよ」
「ああ、忘せっだけ。ばんちゃ早く俵出して呉ろ」
 て、じんつぁ言うた。ばんちゃ、にんまり笑いながら、俵出した。ほしたれば俵さ入った。
「ほして、結って呉ろ、結って呉ろて言うがった」
「ああ、ほだほだ。結って呉ろ、結って呉ろ」
 俵さ入って、いきなり結ってもらった。
「ほして、俵さ入って結ってもらうど、梁さ下げて呉ろ、早く梁さ下げて呉ろて言うて、囲炉裏端の上さ、下げてもらうなだった」
「ほだほだ、はいつだ。おれば早く下げて呉ろ、まず」
 て、さげてもらった。ところが、ばんちゃ、下から杉葉や何かで一生懸命いぶしたので、何とも仕様なくてはぁ、狐コ、すばらしい尻尾出してしまったはぁ。ほうすっどばんちゃ、表さ出はって、
「おお、みんな集まって呉ろ、原っぱの狐押さえだ」
 て、怒鳴った。ほこ、ひょこひょこ、じんつぁ帰ってきた。
「ばんちゃ、なんで狐せめた」なて。
「実は、じんつぁ、こういうわけで、じんつぁえ化げで来たげんども、動物の浅ましさで右の目と左の目、間違って化けてきたのよ。はいつ、おれ気付いっだなだけ」
 て言うて、原っぱの狐取り押えだんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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