2 高松の仁王さま

 むかしむかし、高松のお観音さまの門前に、お仁王さまいだった。
 んで、相撲とりも仕切りして立つときは、〈阿うん(あうん)〉の呼吸ていうて、「ア」て言うなと、「ウン」て言うなと、二人のお仁王さま居だった。
 そのお仁王さま、右と左のお仁王の呼吸が合うことを〈阿うんの呼吸が合う〉て、昔から言ったど。ところがその「ウン」の口の格好したお仁王さま、ちょいちょい夜中に出はって悪さする。我鬼べらをおどしたり、それから馬、魂消らしぇだり、いろいろ悪さする。村人は、
「こりゃ、征伐さんなね」
 て考えっだげんど、
「何せ、相手はお仁王さまなもんだから、征伐するなて言うわけに行かねし、困ったもんだ」
 そういう風に考えっだど。ほしたらば一人の頓智のある若者が、
「んだら、おれ行って征伐して()る」
 て、ある晩行った。ほしたればお仁王さまとパッタリ行き会った。お仁王さまいきなりその若者ば押えつけて、丸べて呑んでしまった。
「いや、こりゃ、呑まっでしまった。困ったもんだ。なぜかして脱け出すしなねべぇ」
 ど思っていたれば、何だか腹の中に(ひぼ)みたいなぶら下がっていだっけ。はいつ一本、ちょいっと引張ってみだれば、ケクリケクリて、シャックリ始めた。「ははぁ」。こんど別の方の紐引張ってみたれば、今度は「ハクション」て、アクショした。こんど少し長いのあっから、そいつ引張ってみたれば、ブウーッなて屁たっだ。
「へえー、こりゃ、ここでこりゃ、体のこと命令してんなだな」
 と思って、ほしてその人は高松で紙漉きなもんだから、懐さ小刀忍ばせっだったど。ほしてほの小刀で、じゅぐじゅぐどここかまわず刺したら、「痛たた…」て、苦しみ始めた。ほして一番短かいな引っこ抜いだらば、ハクションていうけぁ、鼻から出はってしまった。ほしてお仁王さま、それから懲りて決して人さ悪さすねはぁて。そして人の為になるていうわけで、ハシカの番兵したり、百日咳の番兵したりして、今度人間さ(あだ)しねで益するようになったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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