9  嘘つきくらぇご

 昔あったけど。或時な、大ほら吹ぎの名取達(だ)二人顔合せだけど。二人とも法螺 吹きにかけでは負けず劣らずで、吹き くらえご....(競争)なたけど。
 話じゅあ自分(わあ)家の裕福なごどば自慢しんなで、はでさは両方とも吹っさらうも んで、こうずうずう(図々しく)面(つら)して語られっと、ついのってほんとにしてし まうもんでな。話もだんだん大きくなて、終にはこげた事なたけど。
 片ッ方の言うにゃ、俺家にや月見の楼がある。明月眺めながら酒盛りするなも 風流て言うもんだてだど。ここらでや庄屋さまや親方衆の屋根でだて、月見の宴 なて洒落ごめまえ、どて威張てみへっけど。
 ほうしっともう一人まだ、俺家にや馬千頭飼(たで)ったてだど。千頭て言えば近在の 馬喰達皆集めだて探せる数でなえべ。誰も本気して聞く者もなえべに、それ本当 だと言い張ってきかなえなだけど。
 両方とも負けずに ひのど...(我意)つッ張ったあげくにゃ、それでは来て確かめ でみだら良がろ、ほんなら行てみんべどなたけど。
 ほして何日がして、今日は十五日の明月、なんぼが美しいお月さま見られんべ、 ゆっくりご馳走なて来るつもりで月見楼のあるて言う屋敷さ出かけたど。都合よ ぐ途中でほの男ど会って心良ぐ案内してもらたど。
 さぞ立派なお屋敷だろど思て来たどご、先ず通さった所てば、野中さ建った一 軒家の大ボロ屋、土足で上りごんでも不調法でなえよな所だけど。まさがこげた所(とこ)んなえべ。小宿をとったどこだんだと思たろ。さァそろそろ御輿あげて、本宅さ 連れであで呉ろて、はだたれば、ま少しだ。お月さまそんま顔(つら)出すさげて言うじょん。
 そう言ってるうち、草屋根の朽ぢ落ぢた大穴がら、お月さまあがあがど射し込 んで来たどこだど。案内した男まだほれ指差して「ホラ見ろ、居ながら横えなて でも月見出けんべてだど。
 呆れ果てたもんだ。雨漏れと米びつの底の見えるな化物よりおっかなえて言う けつけ、雨降って来たら一体なじしっとこだ。何が月見楼だどこ。月見御殿どこ ろか、これではまるで狸御殿て言てもいいくらい。それでも二人は狐か狸にだま さったつもりで、濁酒の もつきり....で月見の宴を張ったけど。
 んだらば今度(こんだ)は俺家さあえで...呉ろ。何もなえたて口濡らすぐらえは、て言うなで其処(そっ)から馬の居る家さ案内さったけど。月見ごとしては、俺に嘘(ずほ)こがって何た工面して仕返してくっかど、心ン中で楽しみながら後さくっついで行たべ。
 部落(むら)中かり集めてきたたて高々(たかで)数の知れだもの、ほればなじして千頭にすっか、ほの頓智見ものだと思てな。ほごの家さ着いでみだれば、自分(わあ)家と同じボロ屋で厩舎(んまごや)など一棟も建て無え、土間(にわ)の隅(すま)こさ内厩一つ、そごさたつた一頭の馬こ居るだけ。
 人好えもんで、「他の馬ば何処(どさ)が放しったなが」て、きいでみだど。ほしたば、 「よっく厩ン中ば見でくったけが」つけど。
 眼ば馬の眼玉みでえに大きく見張たても、骨と皮ばりのやへ馬一頭眼に入るば りだけど。背中でば弓なりに撓(しな)て、 さんど...骨など出っぱりぱなし、こげたやせひっからびた馬ばへんど...て言うんだ。 へんど...…、そうが、これァ千頭ではなくて、やせ馬の方だったなが。
「んめえごとやらった」て、うなたつけや。考えっと、どうしてか自分がら可笑 しくなて来て、笑い止らなぐなる。二人ぁ大笑いして、それからはとっても仲の 良い友だちになたけど。      どんぺからんこ なえけど。

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