4 長頭廻し

 昔あったけど。昔、或ッ時、滝上(たきね)の親方さ、お代官さま来てお泊りになた時 (づき)のごどだど。
 寝しなに庄屋さまどこお呼びなて、「明日は早立すっから ちょうづ....を早ぐ まへ..よ」て、言付なさったどよ。庄屋ごとしては、ろぐすっぽわがりもしなえくせして、
「ハイ、かしこまりました」どて引き下て来たどごだど。
 さで、ほの ちょうづ....だ。聞きただすも辱しど思たが、何だがも判らなえまま引ぎ下たど。どう考えでも思いうがばなえ。誰がおべったがしど、まず筆取どこ呼 んで相談かけたどこだど。
「今、代官さまがら明朝(あっさま)早立すっから、早ぐ ちょうづ....まへ..て言わっだども、ほのちょうづて一体何だべ」ていうごとなたけど。
 筆取も相談かげらったども、これも首ひねるばりで良え知恵浮ばなえ。いろい ろど手のひらさ指先で字なの書いでみだりもしたべ。チョウどヅをあれこれ組合 せでみんども、ながなが肯けなえ。ああでもない、こうでもないて言うなで、二 人してねり上げで、「長頭」でなえがとなったど。
 お代官さま何のご用か知らないが、一番と頭の長んげ者を選んで差し向げろて 言うお召にちがいあるまいて言うごどになたべ。
 ほごで村一番の長頭て言うど誰たどあげでみっど、下の家の三平にちげぇなえ。 褒美をえっぺえ呉れっごとして、その三平どこ頼むごとしたど。
 翌朝早々ど、中削(なかすり)ちょん曲(まげ)結わせ、羽織袴着させた上、扇ば持たせで一装用で仕立でたべ。その上玄関の土間に筵敷いで、そごさちゃんと侍らへったじょん。
「お代官さまが、 まへ..と仰ったらお前が くびと...を廻すんだぞ」と、 ねっつぐ....言いふぐめだなで、これで何ぁ何たて充分ていうどこだろ。
 ほのうち、お代官さまお目ざめなて、玄関の戸を開げるや、 おっつくばてる.......(伏座)三平どこ見つけで、「ちょうづましたか」て、きがったけど。
 三平、まだ言いづけらった通り、急いで首(くびと)ば三ど、ぐるぐると廻したべ。お代 官さまがこれを見て、まだださげ首を横に振るとばり思たもんだろや。「早ぐませ」 て催促なさっけど。
 ほうすっど、三平まだ一そう勢つけで首ば廻すじょん。お代官さまのごとして は、なんぼたっても がんづかなえ......、あれほど念を押したのに何事だとばかりに、「早ぐ早ぐ」と、いぎり立ってくる。
 三平の方でも汗かきかき、眼まわすくらいに、庄屋さまの命令さ従たどこだべ。 んだもんださげて、一向に話つかなえ風だなで、お代官さまが庄屋どこ呼びつけ で、このいきさつを詳しぐきいだどこだど。
 ほしたれば、他に悪気もなえ事と判て、何だ、ほげた事だったながて言うなで、 代官さまのお腹立もおさまて、カッカと高笑いされだと言うごんだでや。
 ちょうづは長頭ではながった。手洗水で、洗面の鉢(うつわ)を配て、玄関の方さまわし ておぐようにて言うなだったど。
 三平まだご前ば下てがら、大汗拭ぎ拭ぎ、「庄屋さま、俺あ眼まわて命さかかる どこだった」て、言うけつけや。庄屋も冷汗たらたらで、「三平や、俺だて役目に かかることだったぜ」てだど。二人はやっとのことでほっとしあったけど。
 言葉はええ振りこがして、判た振りばするもんでない。判らねば判らなえで、 聞ぎ直したて相手に失礼でなえし、まだ辱しい事(ごん)でもなえぞな。
 どんぺからんこ なえけど。

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