1 作兵衛帖昔あったけど。昔、作兵衛どて背負こ商して歩いだ男いだけど。律儀な人ださ げて、んとはやて(とても繁昌)な、だんだんにお得意も増えだなで帖面つける よになたじょん。この人 あぎねあっど。この帖面さつけんなで、帖面と矢立ははなさなえ人だっ たど。んでもな、字ばろぐに書げも読めもしなえなで、自分(わあ)だけの覚の符帖ば画 いでおぐなだけど。やりとりあんべ、そうすっと、やった方ちゃは槍の恰好画い でおぎ、取った方ちゃ、鳥こば印しておぐ。字ば知らなえさげ、絵図画いでだったろ。 或時(あっづき)な、隣の家がら鶏の卵借り来たど。七つだか十だか、なんぼだか貸してや たべちゃな。そうすっど、早速だは、何時もみでぇ帖面さ隣の目印画いだなさ、 卵の数だけ丸こ並べて画いでおいだど。そごまではええな。それがらずっと経っ て、貸した卵ば返し来たけがら、帖面開いで並べた卵さ横に棒引いで消したどご したど。これで借り貸しも無しでいい訳だんだ。 とごろで、暮(つめ)が来たなで帖面調べだれば、隣の分串柿の貸書いであんねが。ま だこげたな残ったけがど思(も)て催促したれば、隣家(となり)ではそんなもの借りだ覚えは無え。今年は俺家(おらえ)なの柿豊作(ふだ)で豊作で、串柿なの売るくらえもこさえだ。欲しがったらこっちで卸しだえくらいだ。何がの間違え んなえ そう言わって、なるほど卵が串柿に化けだど気ついで、作兵衛まだ大謝りした けど。確か、卵返し来たさげて棒引いで返済したごとしたなだった。ほれば串さ したものと思い違いしたなで、何したても作兵衛一代の不覚、後々までの笑い草 なたけど。 この作兵衛の帖面で、こう言う面白(おもへ)ごともあたふうだ。或時、西郡さ商いに行 たじょん。何時ものごと貸売りしたべ。西郡に半九郎どて大き家あたなで、そご の家の目印に半九郎まだ半黒ださげて、丸こ画いて半分黒ぐ染めだじょん。ほし たら、もう一軒、半四郎ていう家もあたなで、そっちば半分白く残して画いだべ ちゃ。 さぁ後になて、この半九郎と半四郎ど、どっちがどっちだったべか。丸画いだ うち、どっち染め残しで、どっち画き残しだったけがな。半黒が半白が、どっち ども判別つかなぐなて、半九郎さ催促すっか、半四郎の方ええが、取立すんな困 てしまたけど。 こんでがらじゅもの、なんぼ帖面さつけでも やじゃがなえ やっぱり、ちゃんと学校さ上て字習わなぇど、絵図ばりでは用足んなえ。勉強 はしっかりしなんなぇもんだな。 どんぺからんこ なえけど。 |
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