5 猿ど蛙の餅泥棒昔あったけど。薄暮方(ひぐれがた)だったっけ。何処(どっか)で餅搗始またどめえで、山まで威勢の良え杵の音ひびいで行たけど。ほれ聞きつげた野猿(やまのあに)まだ餅食だくなて来たべ。何故(なえ)だじゅなぐ足ぁ自然(ひとりで)にそっちさ向ぐけど。ほして先ず土間で餅搗いでる様子(どご)ば、屋外(おにや)の木立の繁みさ隠っで覗こんでだど。ほしたら餅さありづげだらと寄って来た者(な)、野猿ばりでなえ、蛙(びっき) も先程(さきだ)から来てて、打杵さ餅くっついで とっぱちけで(偶然)飛んで来ないがて、大口あげでながめったけど。 「何(なえ)だお前、 こげた 先ず、蛙ぁ井戸端さ行って、幼児(おぼこ)の泣声まねで大声立てるこった。ほうしっと 井戸の中さ幼児落ぢだがと思(も)て、家(え)の人達(ひたち)餅搗き放ったらがして大騒ぎすっさげ、 そのこめえ なるほど、猿知恵は流石(さすが)に冴えでるじょんで、蛙も餅につらっで猿のいう通り すっこどしたど。ほして良え餅は七五三に搗ぐもんだていうさげ、ちょうど搗き 上る頃、猿の合図で、蛙ぁ「オギャア」て、大声立でだじょん。 家の人達まんまど騙さっで、餅搗ば放ったらかして、やれ「灯火(あがり)持て来い」「屋 根綱持て来い」「梯子どうした」なのて、家ン中大騒動。土間(にわ)の方でば、さっぱり ひとっけ無ぐなたなで、猿の言た通り難なぐ盗み出すごと出来たけど。猿ぁ手際 よぐ臼がらみ山の上さ担ぎ上げて来て、一服しったどさ、蛙ぁゆっくらど上て来 たけど。 でも、猿ぁ待ぢかねだように急(せ)いで言うには、 「餅は上首尾に手さ入たども、このまま食たても面白ぐも何ともなえ。どうだ、 まと と言うな、この山の天辺がら臼ば転ばし下ろす。二人一緒に追かけて行て、臼 の止た所で先(さ)ぎに着いだ方ば勝にして、分(わけ)前多ぐしんべて言うなでな。こういう ずる賢いなば猿知恵て言うなだろな。 蛙にしてみれば、此処まで来んのもやっとさっとだったさげ、これがらまだ走 らなんなえどなたら、 こわくて 下り坂ば重い臼がゴロンゴロン転がんなださげ、だんだん馬力かがて来て、唸 り立で何処まで行っても止まらなぐなる。猿ぁ嵐気なて後追たども、蛙ぁ足遅く て、ピコタンピコタンとはねでるうち、そんま後姿も見失てしまたけど。 ほんでもどうだ、坂の傍の笹原(ささやら)さ白い餅が もっこり 餅腹パンパンしてっとさ、どうしたが猿まだしょげがえって引返て来たけど。 すっと下まで臼追て行たども中ぁ空ッぽで、餅などひどつもくっついで無いけ。 行く途中で皆な零れ落ぢてしまたんだ。なじが俺ちゃも少し分げで食せでくろ、 今度(こんど)から、 ほっても あんまり頼むなで可哀想(いどしく)なて来て、食い余た餅ば笹の葉がらはだけで、猿の面 めがけで打っからみづけて呉ったけど。 とごろが、餅が猿の面さ まっとら とに角、猿の面はこん時に熱い餅で火傷(やけぱだ)してから、 あんげ どんぺからんこ なえけど。 他人の身は考えない、自分(わあ)ばり良え目にあおうとすると、猿みでえ罰当て一文 の得もとれなぐなるもんだ。 |
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