4 猿と雉のよれえ田昔あったけど。猿と雉まだ隣合せで山田持ってな、春野始またら二人ぁ田で顔 合せだけど。猿ぁ先に来てで、畦畔(ので)さ坐て一服してっ所(ど)さ、雉ぁ来着いだなで、 「おり煙草十八服て言たもんだ。一服してがらかがれちゃ」て、誘たべ。雉も「ほ んでや」て言うなで、二人ぁ並んで腰下して一服したどこだど。 「田植(さつぎ)は賑やがなほど果(は)が行く」どしたもんだ。独りで稼ぐなは徒然(とじえん)でつまらなえ。何時もこうして話相手が居っちゅど、仕事飽ぎなえで、手の運びも良がんべぞ。「いっそのごど、共同(よれえ)田にしたらどうがな」て、猿の方がらもちがけて来たけど。 雉も人好えもんださげて、ほれや良がんべじゅなで、猿の持ち田ば先にして よえしたけど。初めは双方とっても都合良ぐ行て、めでたぐ さなぶり 一息つぐえが早いが、直ぐ田の草除りだ。「もう何処の家でも一番草始めだつけ、 俺(お)ら達(だ)も苗さしてかれこれ半月にもなんべ、田の草も除らねば」じゅなで、雉ま だ猿さ相談行たけど。 ほしたら猿また、「この処(どこ)、何た按配だが躯の具合悪くて、ずっと床さ就いっだ」 どて、帯ひろ裸で囲炉裏端で腹あぶりだけど。雉ぁ、ほれ見で本当に けえなえ 「ほんでは仕様(しょん)なえな、大事しろよ、俺だけでも田さ入て草除て来んべ」て、独 りで田の草除りしたけど。しかも猿の田も自分(わあ)どごの田も同じように、 ねっづぐ 一番草終えで、二番草なても猿は寝がしゃて、田さ下りで来なえじょん。雉ば り二軒分の田ば持(たが)たみでぇで大難儀したべちゃ。猿も余り横着こえでも良ぐなえ と思たもんだが、三番草になたれば長着物脱いで股引はいで田さ姿見へだけど。 三番草て言えば、止め草どしたもんだ。 「十六娘と三番草はぶんなぐり放図」て言て、一番難儀などこも済んだんだしは。 鴨こみでぇ、カポカポ攪しただけでも良んださげなや。 今まで雉のごとしては、両方の田ば陰日和なぐ面倒みたつもりだども、元々肥料(こやし)気が違てたが、なんぼが雉の田圃の方が稲ほげ(ぶんけつ)良がったどな。根性 この悪い猿、まだほれ羨ましくて、何としても雉になの負げでらんなえどて、こ ん度邪魔するつもりで雉の田さ入って、 らっぱぎ ほれど言うな、稲の根っこ(ねっこ)掘浚(ほっさら)えば稲の生育(おがり)が遅って、稲刈時なたら猿の持ち田にかなわなぐなり、雉の負けなんべじゅ勘定で、 だがすかど どんぺからんこ なえけど。 田の草除りは、稲株の根っこ盛こ築(つ)かないで、却って根っこ開げろて―言たも んだ。猿知恵も結果は、かっちゃま(逆)だったんだな。 |
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