4 鬼婆ど正月肴昔あったけど。婆さまど息子ど二人、貧乏(しかだなえ)暮しったけど。歳末(つめ)もさしせまて正月もま少しで来っどいう時、婆さま、まだ息子の太郎どこ 呼ばて、 「太郎、太郎、正月もそんま来るもんだもん、馬挽いで町さ肴買い行て来いちゃ」 ていうたけど。 太郎まだ婆さまに使わって町さ行て、魚ばえっぺえ買いこんで馬こさつけで来 たべ。帰路(かえり)、町はずった頃から吹雪こ吹っさらて来て大変だけどは。山ささしか がて杉林さ囲また所(ど)さ来たでは、とっぷり日も暮って暗ぐなたけど。 無理して吹雪ここいで難儀して行ぐよりも、今日は此処で夜明して、明朝(あっさま)なた ら止むべさげ、ほしたら早ぐ出だすごどしたらど思てな。馬こどこば風の当らな え杉木立さ繋えでおいで、薪集めて来て火ばどんどと焚いだどこだけど。 んだらば、魚一匹あぶて腹ごさえでもしっかなていう処(ど)さだど。ガサガサじゅ 音立てで、 「太郎、太郎、俺どさも鯖食へろ」て、鬼婆が出はて来たけど。 太郎、まだ、「駄目だ。これぁ正月肴ださげ、食んなえなだ」て、断たど。 「自分(わあ)食てで、他人(ひと)食んなえじゃあんめぇな、ほんでや、汝(にしや)どこ食うぞ」て、威(おど)すけど。 太郎まだ自分食わってしまては元も子も無ぐなっさげ、仕方なし鯖ば馬がら下 して、鬼婆さ食せる始末だけど。鬼婆、ほの魚みな食いあげだれば、慾張て、「馬 食へろ」て言うけど。 「馬など大事で食へられんば」て断わたれば、「まだ食い足ん無い、汝(にしや)どごが」 て、いうもんださげ、怖ぐなてきて如何(なんじ)にもしょうない。馬まで食われるごどな たけど。見でるうち、ぺろっと食てしまうど、「こんどごそ汝(にしや)番だ」て、襲(かが)て来らったけど。太郎まだ動転しては、胆つぶしそなたども、一寸の隙見で だんだ 山越え、野越えして、川ん所さ出はたでば、一本橋架ったけど。太郎が、ほれ 渡りあげだどき、婆さまやっと追付(かつ)いでな。あんげにまぐらてれば腹重だくて大 変だったべ、足淀まへで、「こりゃ、こりゃ、太郎、ほれば如何(なじょ)して渡て行たどこ だや」て声かけっけど。太郎まだ、 「一本橋渡っ時じゅものは、袂さ石こ一杯入れで渡っど、体がふらつかなえで渡 り易いもんだ」て、良え加減な事を教えだけど。 鬼婆、まんまどのって、袂さ一杯石こ入っで渡たべちゃ。ほしたば橋の中頃さ 行くじゅど、重みで橋あボギンと折って、ダブンと水さ落ぢで流さっだべ。太郎ぁ こん時(づき)だじゅなで、 だがすか 「あっや、太郎に騙さって川さ落じて寒(さ)み寒み、みな濡っでしまた」て、ブルブ ルじゅ格好(かんめえ)して入て来たけど。ほして来るえがも早ぐ囲炉裏さ火ばどんどど焚え で暖だっけど。でも太郎ぁ隠ってっ所嗅付げなえどこだべ。 「こういう時ぁ、甘酒でも呑んで温まんべな」て、甘酒鍋かげて背中炙(あぶ)りしんな だけど。ほのうち鬼婆は先程(さきだ)の疲れ出たが、馬こまでかっ食(くら)たなで満腹(はらくち)いんだし、ゴンゴンて高鼾かいで眠てしまたけど。 ほうしっと、梁の上から覗(のぞこ)んでだ太郎まだ屋根裏がら葦ば引っこ抜いで、 かぎのはな 婆(ばんば)、当外ったもんださげ、こういう時ぁ寝るごったどて、 「さでど、石の からどう 太郎まだ婆のよっく寝づいだどこ見計らて、梁がら下りで来て、いよいよ退治 さかがたけど。先ず囲炉裏さ薪ばだんだどさっくべて、茶釜わがしたど。ほして 婆が入ってた木のからどうさ、錐で穴ばあげっとこだけど。錐もみ出すと鬼婆、 まだ、「隣のキリキリ鳥ぁ叫ぶな」ていうじょん。ほのうぢ穴こがらお湯少し注い でやたれば、「熱いちゃ、沸ッちゃ、福娘子(ふぐぢょこ)の小便だが」ていうけど。婆あ寝呆けでっさけだ。今のうち急いで櫃の中がら出はて来れないようにしてくれんべどで、 縄持て来て、蓋ば がんが どんびつ唐櫃 すっ唐櫃 すかすかきんかの金覆輪のぐーずぐず て、穴こから熱い湯ばジャーど注いでやたけど。婆、熱つがて嵐気なて暴れん なだども出はて来れなえもんださげて、 「熱っちゃ、熱っちゃ、太郎だか、太郎だら許して呉ろ。こんどから ほっても 太郎まだ「こんだから、 ほってもな |
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