1 地ン蔵ど団子昔あったけど。爺さま何時もどおんなじに、朝起ぎっど直ぐ土間掃除(にわはぎ)したど。 ほしたば薄暗闇で良ぐわがんなえども、箒の先端さあだたあいばいだど土間の隅(すま)こさ、団子粒みでえなもの落ぢったけど。爺さま拾うべど思て手出すと、向うの方ちゃコロコロと転んで行ぐじょん。追(ぼ)か けで行て、 そんま(直に)手が届きそうなっと、まだコロコロど、なんぼでも転 で行ぐけど。とうど、ねずみ穴さ落ぢて行たけどは。 ほごで、爺さまも諦めんべどしたれば、団子、まだ穴の中で「来(こ)え、来え」(お 出でお出で)しっちょん。これぁ何があんだがと思て、無理々々入ってみたど。 暫ぐしっど、だんだん広い所(ど)さ出たけど。ほして団子まだ相変らず爺ぁ先さ立て、 コロコロ転で行ぐなで、ついで行てみたど。 爺さま、「団子々々、何処までや」で聞いだど。ほうしっど、「古木沢の腰まで や」て言うじょん。んだなや、団子と爺さまがかれこれどの位歩いだもんだが、 どこだんだが、ひょっこり目の前が明るくなたと思たれば、地蔵さまの立ってる所(ど) さ出はたどごだど。 其処まだ少し盛こになった広場でな、今までコロコロど、転で来た団子まだ此 処まで来っど、ぴたり止たどこみっど、古木沢じゅあ多分此処らあだりのごんだ べちゃな。爺さまそう思て団子拾て、ドッコイショど一休みしたど。 先ず団子の土ついだ所ばむしって、良え所ばり地蔵さまさ供(あ)げで、汚っだ所ば 自分(わあ)食たけど。地蔵さまも腹へらしてたどめえで、「これぁ、んめえ。親切にあり がとう」どて、喜ごで礼言うけど。 ほして「何が礼したえども、何ぁ良えが、欲しいものあったら遠慮なし言って みろ」つけど。んでも慾のなえ仁だもんだ。「今ンどご何も欲しい物も無え」て、 返事したなだど。 「んでや、今まで何が困った事ながったが」て、きくじょん。「んだな。大した事 でもなえども、ねずみに糯米ひがってしまて、正月来ても餅搗けなぐなたて、婆 さまこぼしてる。ほれだて一寸ばり我慢すれゃええごどさげて、ほれほど ことかい 「やあや、ほげたごとあたなが、ほれぁ良ぐなえな。ほの悪(わ)りごとしたねずみ達 がら取返してやんべちゃ。爺さまや、良え工面がある。もう少し寄て来て、耳か せ。今晩(ばんげ)な、ほのねずみ達こさ集て餅搗きすっさげ、搗ぎ上げだどごば、そっく り奪取(ぶんど)てくれんべ。お前まだ何処(どさ)が隠ってで、俺が合図したら猫の鳴き声真似してみろてや。きっとねずみ達うろだえで何も彼も置きっ放して逃げっさげてな」 て、地蔵さま工面授げてくったけど。 ほのうち陽も落ぢで、あだりもすっかり暗ぐなたべちゃ。ほしたばねずみ達の にぎやがに騒ぐ音近寄て来っちょん。地蔵さまの陰さ隠って様子うかがてたら、 「ワッショイ、ワッショイ」て、掛声かけて餅搗臼担いで来ん者(な)に、杵持(たが) た者(な)も居る。藁束担いだ者(な)、これまた臼の下さ敷ぐのだろちゃな。木桶さ水入って来る者、ちゃんと段取り良ぐ地ン蔵さま前の広場さからくて、ふかした餅米運ぶばり なてな。ねずみ達(だ)すっかりうがれて歌い出す者もいで大はしゃぎだけど。 孫 曾孫(ひこ) やしゃえご ぞぞりごの末までも ニャンという音聞ぎだぐ無え さあ、こしきの餅米運んで搗ぎ出すと歌も一段と弾んで来たじょん。ペッタン コペッタンコて、多勢で搗ぐもんださげて、たちまち搗けんべちゃな。手返しも ポンと音の良(え)えどごみっど、かれこれ搗け上たがなど思う時分、地ン蔵さま合図 してくったけど。爺さま此処だどばり、上手に「ニャオン」てやらがしたろ。 さあ、これ聞いでねずみ達大変だ。 「ほれや、猫え嗅ぎづけらったんなえが」て、大騒ぎなたけど。今が今まで孫子 末代までニャオンていう音聞ぎだく無え、て歌い囃しったなださげ、大慌てで何 も彼も置ぎっ放しの散(ちら)し放題、命からがら逃げっけど。 後で地ン蔵さまど爺さま、二人ばりして、「これぁ、んめぇ、んめぇ」て、大喜 びして、搗ぎたてのホカホカば、 じゅうぶぐ その上、なお地ン蔵さま、まだ、「爺さまや、餅ばりえっぺえあたても良え正月 あ迎えらんなえべちゃ。ついでだもん、 ま どっち途、悪い事して盗て来た宝物だもの、それ奪(と)て何が悪りんば。ちょうど 良え頃に、また合図しっさげ、ほしたらお前まだ、今度ぁ鶏になて時告げでみろ。 鶏じゅあ、高い所で歌うもんださげて、この梁の上さあがって隠ってっと良えど もな。梯子無えさげて、俺の体さ伝って上(あが)て行げ。構わなえさげ、遠慮なのすん なーて、地ン蔵さま言てけっけど。 なんぼなえだて、泥足で地ン蔵さまの体さ上るなて罰当(ばちゃかぶ)ることだどて、爺さままごまごしったべちゃ。ほしたら、「早ぐしろよ。気の早い鬼達来んぞは。見つか たら何にもならない。ほら、先ず俺の膝株の上さ上(あが)れ。上たがや、ほしたらこん だァ、肩さ上れ。遠慮してる場合じゃなえ。ほしたら頭さ上れちゃ。愚図々々し なえで、さっさどしろ」どて、 わぁわぁ 爺さまでば、地ン蔵さまに励まさって言わった通りすんどもな。 「勿体なえ、許して呉ろよ、南無阿弥陀仏…」どて、謝たり念仏唱えだりしなが ら、天井裏さ忙しく上て行て隠ったけど。 さあ、ほのうぢ、赤鬼、青鬼達、前の広場さ寄てきて、蓆敷いで博打始めだけ ど。大部出入あって、もうたっぷりなた頃に地ン蔵さま合図しっちょん。ほうしっ と梁の上の爺さま、扇ば開いで鶏の羽ばだぐ音立てでがら、「コケコッコー」て、 大声張り上げだじょん。 「何(なえ)だや、鶏鳴いだ、んなえが。もう夜ぁ明げる頃だがは。今日は何時もより早 ぐ鳴ぐんなえがな」て、可笑しがる鬼こも居だけど。そごさ「コケコッコー」て、 二番鶏告げっちゅど、鬼共ぁ、「これぁ おっかね 地ン蔵さま、まだ、「うまぐ行た」ぢょんで、ニコニコてな、爺さまどこ、 「鬼共逃げで行た、もう誰も居なえさげ下りで来い」て、呼ばっけど。 二人して鬼達かっ散して行た宝物ばザクザクと寄せ集めでな、ほれば先程(さきだ) の餅と一緒に地ン蔵さまの赤え腰巻さ包んでくっで爺さまさ背負せて呉ったけど。地ン 蔵さまの心づかいで爺さまど婆さま良え正月迎えだばりが、ほれがらずっと楽々 と過したけど。 どんぺからんこ なえけど。 |
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