9 殺生の名人昔あったけど。殺生ば好きだて言うが、この人まだ生物(いきもの)掴え上手でな、弓や鉄 砲など飛道具ば一切使わないで、変った面白(おもへ)ごとして鳥こでも大きいものでは熊 でも捕る名人だけど。先ず、身近なちちゃこい物では寒雀捕りなど、これには ひこぐしも ばったり 雉掴める時には、こんだ殻さ薄荷を付けて食せっと、手掴み出来っと。何しろ雉じゅものは卵十二個産(な)して十二ばみな孵(む)えで育つようにて、十二の神つまり山神さまさ願かけで居んなで、ほれで飛び立つ時は息止めて一息飛びするなだど。ほごさスースーする薄荷食たら堪たもんでない。呼吸(いき)出来なえでへばてしまうべちゃ。 水泳ぐ鴨こ捕る時にはな、薯蕷すって、ほれ流してやる。田圃の水口あたりの泡立ってるよな所さ淀むべ。ほごを鴨こが餌探して嘴でほっちゃぐっど、薯蕷くっ ついて鼻穴が塞がってしまうなで、呼吸(いぎ)つけなえで、ころりどいう寸法だ。 ほれがら野兎じゅな、鷹のどご怖(おかな)がて、鷹の音聞きづけっど、すぐ すぐて 狢(むじな)は一番じょうさなえ。見つけだら、「死んだ、死んだ」て、大声立てて古藁 沓でも投げつけでやっと、自分(わあ)がらその勘定して、ころっと転んで死んだ真似すっ さげ、すかさず掴えで縛りつけるこった。 熊ばりぁ大っきいし力持ちださげ、まどもに向たんじゃこっちが危なえ。ずっ と昔には、よぐ熊獲りオッチョをかげる人も居だけつけどもな。熊は利口でオッ チョさ落ぢでも ほっ 熊のかがたオッチョ はずす ところが、この名人の熊獲りていうな、ほげた手のかがるこどでなえ。先ず茄子(なす) 漬たがて熊獲りに行ぐ。獲物見つけだら出来るだけ近寄て、鼻先さほれば打っからみつげる。熊がほれ見つけっど、 どでかっぺ |
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