7 蟹こむがし

 昔あったけど。或所(あっど)さ、子供(おぼこ)持だなえ爺さまと婆さま二人ばりで、心細(たのぽそ)く暮しったけど。或時、爺さま、沢がら蟹こ掴めで来て、自分(わあ)の子供(おぼこ)みでえして育でだけど。
 んだもんでさげ、蟹こも爺さまさ馴れでは、干餅見せっと溜池(せんす)がらガサガサ這 て来て、鋏さはさで食うよなてな、めんごくてめんごくて大事して育でだべ。そんまおがて大きくなたけど。
 蟹こまだ爺さまさばり懐くなで、婆さま少し烙気したべな。爺さま干餅たがて行て食へでっさげ、妾もそうしんべがなて、爺さまの留守だ こめえ...、溜池(せんす) さかだがた....(近寄る)どごだど。
 ほしたば、蟹こぁ婆さまどご見つけで、爺さまでなえさげ、こうやて抜げ眼(まなぐ)し てにらめで、ほっても出はて来なえじょん。何たら やらしぐなえ......(憎たらしい)ったて、て言ってるどさ、爺さま帰て来たけど。
 何がんめこ...(菓子)でも買って来たもんだか、さっそぐ溜池の蟹こさ持て行て、食せる勘定したど。
   蟹こごそごそ 爺ぃごそやーど
   爺ぃごそァ 来たぞやなー
 て呼ばたれば、隠穴(おろ)からガサガサ這い出はて来て、爺さまさたぐづく(すがる)じょん。菓子(んめこ)呉ったればほれ食て、爺さまど へいほで....い(心ゆくまで)遊んでがら、機嫌よぐ隠穴さ引込で行んけど。婆さまほれ見でで、ああすれば懐ぐんだなど判たろ。
 或時な、爺さまの口真似して呼ばてみだど。
   蟹こ ごそごそ 爺ぃごそやーど
   爺ぃごぞァ 来たぞやなー
 そう言たたて、蟹だて利口だもんだぞ。爺さまの言葉だて歌だていっつもど違うもんださげて、出はて来なえどごだど。
 婆さまカンカンなてごしゃえで、干餅ばぶん投げで立て来たど。ほしたら立つえがも早ぐ、蟹こごとしては干餅拾うつもりで出はて来たけべちゃ。
 それ見で、婆さまごしゃえだの何のて、「何だて されや...憎い畜生だちゃ」どて、山刀持ち出して来て、蟹こどこばじゃっきりど切ったぎったじょんは。
 蟹ごとしては大変だは、あんまり はつそく....(激しく)やらって命落したんださげてな。誰も見でなえと思ったどごろが、烏ぁ天上の方でちゃんと見届けであったど。
 夕方(ばんかた)、爺さま何も知らなえで帰て来て、何時もみでえに溜池さかたがたべちゃ。
   蟹こ ごそごそ 爺ぃごそやーど、爺ぃごぞァ来たぞやなー
 何だべ、蟹ぁさっぱり出はて来ないは、こりゃ困たごんだは、どて、一所懸命呼ばたど。ほしたら天上がら烏とんで来て、こう言うごと言うけど。
   ガアガアガア 爺ィごそ
   蟹どこ切ったぎらってしまたちゃ
   ガァガァ
 ほんでや、家の婆さまが蟹どご憎いどて言うごとあっけや、やらて... (嫉妬して)なじがしたな。まだ、
   蟹この甲羅は家の前の苗代
   ガアガアガァー
 何度も教えっけど。ほごで苗代さまわてみだれば、なるほど、甲羅ぶっこまってあったけど。
   爺さま がおた...(がっかり)がおたー
 て、烏ぁ後つづけっけど。
 爺さま、おそこ知らなえ.......(素知らぬ)ふりして婆さまさきいでみだど。
「蟹こさっぱり出はて来ない。汝(にしゃ)、蟹こさあだら(触れる)なえが」てだど。ほ したら、
「蟹さなのあだらなえ、烏ぁくわえで行んけな」て、他人(ひと)さ かんつけ....(所為にして)白々しいごと言うけど。
「烏ぁ何して蟹こどこ かもう...どご。汝(うな)良ぐなえごどしたに相違なぇ」て、婆さまどご言いぐるめんなだけど。ほして、
「烏ぁちゃんと見ったて言う。婆ンば蟹ば切ったぎって、甲羅ば苗代さ投げた、爺ぁがおた、がおたーて言うさげ、汝(んな)殺したにちげえなえ」て、爺と婆さまだ、 んんとええ.....(大変な)喧嘩なたけど。
 それにしても、生物(いきもん)は童たちと同じだ。んまぇ物もらえば懐ぐし、そうなりゃ 情もうづるもんだ。 どんぺからんこ なえけど。

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