5 鳶と烏

 昔あったけど。ある時、田圃(ともで)の取残しの杭掛さ鳶が一羽飛んで来て、 しょぴたれ.....(しょんぼり)で止ってたけど。
 それ見つけだ仲のええ烏まだ、何時もの鳶らしぐもなえ、何が心配(あんじ)ごとあんだ な、どこが腑抜げでるようださげ、「何考えごとしったけなや」て、声掛けで慰め だどごだど。
 ほしたら鳶まだ、「他でもなえども、親のお墓ば何処(どさ)構えだら良えがど思(も)てな。思案余しったなよ。友達のよしみで一つ工面貸して呉っちゃ」つけど。ほしたら、 烏だて友達のこどだんだし、一緒なて智恵しぼたろ。
「どうだべ、山ン中や野ッ原よりは川原の方が見通し効いで、何処(どっ)からでも拝む ごと出来るだけでも便利でなえが。ほの上お墓のまわりさ、きれいな石こ並べて、何時もきちんとしてあげる。お水も絶さず供(あ)げられるさげで、俺だば川原をすすめるな」つけじょん。言わってみっど、鳶もその気になたが、烏の言うごどきいで川原さお墓築いだけど。
 ところで、こさえでみるど、雨が降る度(たんび)に洪水出て流さんなえがど、心配(あじこと)でじっとしてらんなぐなて来んなだど。んださげ鳶ぁ川原のあだりば低く飛び舞うよな 時は気をつけなんなえ。きっと洪水になる怖れのあっ時(づき)だて言うもんだ。
 とにかく、鳶ぁ烏には騙さったとて怨みごと言うし、烏は烏で川原で しょぴたれ.....姿の鳶ば、
   鳶ァお山の鐘叩き 一日叩いて米五合
 て、馬鹿にするどこだど。これまでとっても仲の良がった二人だども、この一件からじゅもの、すっかり仲違いしてしまったけど。
 とごろが、こんど烏ぁ鳶に敵とられる番なたど。ほれじゅもの、春が来て鳥こ達巣造りいっしょけんめぇだ時だっけや。烏も他の鳥こ達に負げでらんなぇじょんで、枯枝や樹の皮屑などえっぺえ拾い出したけど。ほしてや杉の大樹見上げで、「さで、今年ぁ何処ら辺の枝さ備えだら良がべが」て、思案しったけど。
 そごを、鳶が通りかがたなで、足止めさせで聞いでみだべちゃ。ほしたら鳶まだ、「今年あ何でも荒れ年だて言うつけぞ。風強いど、どうしても危えさげ、俺だば低い所(ど)さ営(く)む勘定しった。低いたて狐や狸の手の届がなえ所(ど)さじゅんだ」つけど。
 烏ごとしては、鳶に本当の事教(おへ)らったなだども、前にお墓の一件もあっさげて、 きっとの事で、反対の事言うながもしんなえ。鳶の言うごと本気にして聞いだら大(おお)事になる、どて根性ば曲げて高い所さ巣営(すく)むごとしたけど。でもこれぁ烏の気の まわし過ぎじゅもんだ。強い風吹ぐたんびに、烏あ巣ば吹ッ飛ばさんなえがど心配していねんねけど。
 ほれがら きたい...に(ふしぎに)、烏ぁ高え所さ営んだら風年で、逆に低い所えらぶどおだやかな年さ当るんだな。烏ぁ高い樹の頂天(しんぺ)のまわりば騒ぎまわるよな時には、きっと大風になっさげて、試してみっどええ。
 とにかく、これで鳶と烏ぁますます仲悪ぐなたけど。
  どんぺからんこ なえけど。

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