4 行々子

 昔あったけど。貧乏暮(しかだなぇ)しの家さ、女子童こ居でな、口減しどて小っちゃえなに奉公やらったけど。長者の隠居爺さまの小間使いさへらったど。
 ある時な、隠居さまが大事にしている上等の草履ば、片方見なぐなたどごだど。 てっきり何処がの犬こでも戯(ざ)れでくわえで行ったんでなえが。若勢達、下女達総 がかりで家の周囲(まわり)ば何度も何度も、床の下まで探さへらったけど。
 ほんでも こぐらえ....ど(不思議に)見つからないもんださげてな。皆な 気めえやげ.....で(苛立つ)、この童こが恨み持て隠したんなえがて疑ぐりかげる者(な)も出はて来たけど。
 中にゃ、なんぼ立派な草履だて片方ばりじゃ盗でみたて何(なじ)なんばや。跛が履ぐ んであるめえさげで、情くれる者(な)も居だし。悪(わ)りごとして隠居さまにごしゃがっ たな腹さもて、困らへてくれんべど思(も)て、わざど隠したどごだんだて、いびる者(な)も居だけど。
 童こごとしてぁ、若しかしたら、隠居さまが何処(どさ)が履いで行て、片方ば履き違 えで帰て来たと言うごとも無いと限らなえ。そう思てあっちこっちの家さ行て、「お爺さまの草履、片方知らなえべが」て、聞ぎ歩いだど。
 何処さ行ても口振り揃えたように、「ほげたもの、触たことも、見だこともない。 何処探しても見当らなえごんだら、あっちの芦原さ行てみんだな。もしかして犬こでもいたずらして、くわえで行がねど限らなえ」て、言て呉(け)っけど。ほんでや、て言うなで千に一つの望みかけで、芦原さ行てみたけど。
 芦の生え茂った所ば、あっちゃもぐて眼ば突ぎそうなたり、こっちゃ越えで葉っ ぱで手切って血たらしたり、向う脛など蚯蚓腫れさせながら難儀して探し続けた けど。ほれでも見つからなえで家さ帰っと、やっぱり盗だに違いなえどて、きづ く折檻されっけべ。こげえして、雨が降っても風が吹いでも、草履出はるまで探 して来いどて、毎日飯(まま)もろくにあでがわんなえで家ば出されんなだけど。
 泣ぐ泣ぐ方々探し歩いだども見つからなえ。いどしいごとに、その娘童何時が のこめえ、とうど鳥こになてしまたけど。娘の怨みがこもたんだろ、芦原をさえ ずて歩く声も
   草履片方(かたぴた) なじょされんば
   馬鹿じじい 馬鹿じじい やがましちゃ
て、きけで来るようになたけど。 どんぺからんこ なえけど。

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