2 時鳥の兄弟

 昔あったけど。或所(あっど)さ、兄と弟ど二人ばりで暮してる家あったけど。兄まだ弁当もちで山さ稼ぎ行ぐど、 せば ..弟は家さ残て家のまわりの仕事してっけど。
 弟じゅあ、何時も兄どご大事に上げておぐ、気のええ男でな。今日も兄ぁ難儀 して帰て来んべさげどて、来たらすぐ飯(まま)にするつもりで、早っから炊事(しんめえ)出来して待ぢったけど。
 背戸の山から採て来た山芋ば煮でだど。良え所(どご)は でっちり ...兄の分にとておいで、自分(わあ)、まだ毛だらけの皮ば少しばり、昼間に始末したどこだけど。
 兄さ てんこもり.....盛て、「とって もんめえ....芋だけ、たんとあっさげ、えっぺぇ食(け)ぇ」て勧めだけど。とごろが、兄ぁ何虫の居所(どこ)悪りがったもんだが、急に機嫌悪ぐして八当(やつあた)り当んなだけど。
 なるほど、芋を食てみりゃ んめぇ...んだし、根性曲げだどこでなえがなや。弟が先ぎに良え所ばり選(よ)て、自分(わあ)口さへしこんでおいで、俺さば残り屑ばとておいだんなえがど疑ぐたどこだべ。本当は端こや皮むいだ時(づき)の屑ば、勿体なえど思て、捨(なけ)なえがったなだ。ほれば煮で昼食(ひるま)したなだったて、言いきかへでもききわげなえじょん。
 何(なえ)だ彼(かん)だて、あだりちらして、とうど、ええ所まぐらたがどうか、腹裂いで見りゃ判るごどだて、やっちもなえ(無茶)事言い出す始末なたけど。言争(いけえ)のあげぐにゃ、兄ぁ頭さきてしまては、弟の腹さズブリ包丁刺しこんだけど。
 ほしたら、腹ン中から出はて来たもの てば..、弟の言(ゆ)た通りで、芋の毛の生えた皮ン所(どこ)と屑ばり。んだもんださげて、兄ぁ えぐな...がて(悪怯れ)悔むなだけど。んだてもう遅い。
 たった一人の弟ば死なしてしまてからは、なんぼ悔びて悔み切れるもんでない。 ほれがらじゅもの、がっかりがおて、弟恋しいどて泣いてばりいるもんださげ、 とうどう鳥こなてしまたけど。
 この鳥こまだ夜昼なぐ、淋しぐなっと泣いで飛びまわんなだど。
   弟恋しちゃ ポト裂けたか ポト裂けたか
 今でも時鳥は弟の供養に、八万八千八百八声、喉から赤い血ば吐きながら鳴き 歩ぐなだど。 どんぺからんこ なえけど。

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