12 正月と太郎御主人があるところにいて、大晦日だから、そこに感心な太郎という使っていた者がいて、「今日、太郎、大晦日だから早く帰って行って、ゆっくり休んで、明日早く来い。戸開けっどき、ドンドンと叩くじど、『誰か』とおれぁ言うからそん時、『福の神』だといって入っで来いよ」 といわっで、行ったど。 そして今度、鶏も唄ったし、太郎も来るべなと思って、主人が待ちっだど。太郎も早く来いと言わっだから、行くべと思って仕度して立って行って、ドンドンと戸を叩いたらば、旦那が戸を開けた。 「誰だ」 といったところが、 「ああ、太郎だ」 と、こういうてはぁ、太郎だといわって、戸を開けねわけに行かねから、戸を開けたば、太郎はなんだか早かったとも何とも言わなかったし、なんだか機嫌が悪いなと太郎は思ったど。 で、若水も汲んで、 「金汲む、よろずの宝汲む」 と宝の水を汲んで、それを釜さ沸したりして、食うものを煮たり、朝の雑煮にかかったところ、何つけかにつけ太郎に当る。そして今度、お酒を飲むとき、太郎は考えたど。 「おれは福の神だと言わねえから、面白くないのだ」 と、おれは福の神だ。 そして、酒を飲むとき、ちゃんと坐ってから、 「おれが福の神だ、さようなら」 というたど。旦那は「待て待て」というたげんども、縁起ばりかつぐ。こんな福の神なんて、情ない旦那だと、帰って行って、福の神だと言わねばりで、逃げらっじゃど。んだから、縁起ばりかつがないで。 |
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