10 荒れくれ王子

 ある国の王様の息子に、とにかくあばれ王子が出きて、何とも仕様なくて親も心配していだったそうだ。
 ある日、みんな家来どもを連(せ)て、
「みんな水浴びにあえべ」
 と、川さ連(せ)て行った。
 なんだか、今日は雨も降るし、荒れ模様だからまず行かね方がええでないかと言うげんども、その王子は聞かなくて、
「あえべあえべ」
 というて連(せ)て行ったところが、やっぱり荒れて来たど。そんで、
「おれの後さ続け」
 というもんで、川さ入って行ったど。そんでもみんなは、そういうこと聞かねったてええから、おらだは帰れというもんで、王子ばり川さ入れてみな逃げて行ったど。王子はそのうちに荒れてきて、流っで行ってしまった。王様は、
「なんとして来た」
「王子様は帰って来たものとして、おらだは帰って来たが、まだ帰んねが、こんな時は早く帰れというたから、先に帰っていたでねえかと思って…」
 というようなあんばいで、まずみんな口止めしていたど。そうしたところが、太っとい木ぁ流っで来たのさ、たぐついて王子様は流っで行ったど。ところがその木さオームに蛇とネズミと上がっていたど。そいつさたぐりついたところぁ、ある坊さんが来て、その木を引っぱって岸に上げて助けてくれたど。そしたところぁ、オームは、
「いやいや、助けていただいて何か恩返ししなくてはなんねぇから、いつでも上げっけんど、そんでもおれぁ、宝というたって、銭と米ばりだ」
 と、坊さんに言うたど。蛇もそういうし、ネズミも、
「こういうところに住んでいっから、不足なときは来て、音さえも立てておくやっじど、おれぁ恩返しに行く」
 と。そしてその王子だけは、そこの坊さんとこに置いてもらって食せてもらっていたど。そうして家さ帰るといって帰って行ったど。そして今度は、まず畜類なんどは、なじょなもんだかと思って、人間がありがたいという口も立たねで帰って行ったど。
 そのあと、坊さんは、それぞれなじょしったかと思って行ったど。
「ネズミよ」
 といったところが、ネズミは来て、
「ありがとうございました。恩返しに何あげたらええがんべ」 「いや、マメでいたかどうか、おれが食(か)んねくなったときには、願いに来る」
 蛇さ行ったところが、蛇もノロノロと出はって来て、そういう。オームさ行ったときも、
「ありがたかった。恩返しに何か上げたい」
 という。
「いや、おれぁもらいたくて来たでない。まず無事でいたかと思って、おれぁ諸国を廻って助けて歩く人間だ」
 と、坊さんがいうたど。そしてある時、諸国廻って歩ったところが、王様は死んで、後を継ぐとこで、大したその国での祝いをして、象さのってされるだけ贅沢なことして町を廻るどこだけど。そしてその坊さんが橋の上に立って見っだところが、あっちでも見つけて、
「あれを生かしておけば、おれのためでない。おれどこ助けて呉(く)っじゃな、おれどこさ何か欲しくて来たには相違ないから、あれを生かしてでは駄目だ。あれを殺せ」
 という命令かけたそうだ。そうしたところぁ、
「おれは生命はいたましくないしするげんども、お前の方は、聞くと王になるのは、おれが助けた者だそうだが、あんな者に政治とらっじゃら、お前だどうするごんだ」
 と、まず大声でいうたど。そうしたところが、
「むかしから、おらだ、荒れん坊だったということ聞いっだった」
 というような話で、
「ほんじゃらば、あんがえな者に、政治とらせていらんね」
 というもんで、ヤァヤァと話するなで、引ずり落さっで、どこさか身を隠してしまったど。
「ほんじゃらば、この方から政治、ええあんばいにとっていただけたら、おらだ助かる」
 と、その人をのり物にのせて、村さ顔見せて、その人に政治とってもらったど。
 んだから、恩を忘れるようなものに、いい政治はとらんねど

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