8 石切屋と猫

 石切りしていたところさ、ネズミはちょこちょこと遊びに来て、
「石屋さん、何かうまいもの食いたくないか」
「うまいものなど食いたいな」
「おれが昔ある占いさ聞いたことある。おれぁ金持ちの商人が生まっで来たということ、陰で聞いたことある。おれぁ、んだほでに、金のあるとこなんぼも知った」
 というネズミだけど。そしたば、
「なして、どっからか引いて来んのか」
「いや、どこに、金があるじだか、おれ、金見つけられるな」
 と、こういうけど。
「そうか、ほんじゃ、持って来てみろ」
というたところが、金くわえて来たど。
「こいつで何か買って、おれぁどっからか引いて来たんであんめえな」
「引いて来たんでなくて、おれぁ見つけて来たんだ。誰ぁ何でもないから…」
というもんだから買って来て、時々楽しんで、石切りもいたところが、猫ぁ来て、そのネズミ見つけて取らんとしたところが、
「いや、猫さん、おれの体一食(ひとく)い食ったところで腹くっちくなるまい。長い間友だちになって食べたらええでないか」
 て。そして猫ぁ来て、余計にばり食って、ネズミには食うどこないがったど。
 また一匹の猫も腹減らして、子どもを持ったげんども、思うように食うものはない。それにも食せたりしたところぁ、まずネズミは痩せて痩せて、石切りとこさ行って、
「石切屋、とっても二匹に来らっでは、おれは体もつきたし、なんとしたらええか」
 というたら、石切屋は、
「水晶の箱、おれ持った。ほんじゃ、お前はおれどこ、うまいもの食せたり、いろいろして、そがえに痩せてはいらんねんだから。猫になど食せねったってええんだ。この水晶の箱さ入っていろ」
 といわっで入っていたところぁ、猫は、
「ネズミなんとしった。あがえに一食いにして呉(く)れんべといたところぁ、今まで許していたに、こがえなことだらば、おれぁ一食いにすんべ」
 といって、来たけざぁ、ネズミは水晶の箱に入っていたもんだから、ネズミどさ話したげんども、
「こんどはうまいものは、お前どさ呉(く)れらんね、猫の子いっぱいあったらば、そいつでも食ったらええがんべ」
 というたところぁ、ごしゃえで、その猫は食(く)てくれんべと思って、アッと頭を水晶の箱さぶっつけて猫は死んだど。いま一匹もその通り、そがえな一食いにしてくれんべと思って、思い切って来たところぁ水晶さぶっつかって、死んだど。
 んだから、唯食うべとは思っていらんね。

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