23 てんしっきむかしあるところに、相当な金も持っていて、地位もあって、知しゃねものないて豪語しているじんつぁいだった。ところが、寄る年波で何食べたか分らねげんども、腹われぐした。ほして医者あげた。医者家さ帰って行って、次の日薬寄こさんなねわけだ。ほうすっど薬箱かつぎの若衆さ、むかしは書生から医者になったその書生がきて、 「あの、実は、てんしっきがありましたか」 て聞いた。さあ、知しゃねものない、ないものないて威張っていたもの、てんしっきて聞いて、これは何だか分らない。困ったこと始まったわけだ。医者では、体の状態で薬もらわんなね。 「ちょっと待ってけらっしゃい」 ていうわけで、荒物屋さ走らせてみた。てんしっきて言うから、漆の類でもあっかと思って、荒物屋さ行ったらば、ある一軒の荒物屋で、 「はぁ、昨日まであったげんど、売り切っだ」 ここでもまた知らず嫌いで、ほれ、ないって言わね。 「売れ切っだのでは仕様ない。とにかく町で売ってるもんだな」 と思って、ほの若ものは別の荒物屋さ行った。 「てんしっき、おら家では、こんど扱わねことにしったはぁ」 「なして」 「若衆、かけらさ上がって、足切って、まずはぁ、医者さ行って縫ってもらったとこだから、とてもでないげんども、おら家では扱わねことにした」 「ははぁ、何か、かけらみたいな、ギヤマンでもあっかな。そっちにもこっちにもないもんだべ」 「んだは、まず、お寺さ行って聞かんなね」 て、若衆ばお寺さ走らせた。お寺またこいつぁ人より知らず嫌いなもんだから、 「あるとも、あるとも、三階重ねでも、五階重ねでもある」 ていうたって。ほして…。 「旦那さん、旦那さん、お寺さまにあっど」 「そっと借りで来て置け、ないではうまくないから…」 ていうもんで、借りることにして来た。ほだえしているうちに、医者さま来て、 「いや、どうだっす、ありますか」 「ありますとも、ありますとも」 「はぁ、ほうか」 「三階重ねから、五階重ねでもあります」 ていうた。 「ほう、それは結構だ」 「出してお目にかけっか」 「いやいや、それに及ばぬ」 「いやいや、それに及ばぬなて、遠慮に及ばね」 なて、いうわけで、ほして話しったれば、だんだえおかしくなって、話のつじつまが合わね。聞いた。 「何か、こっちの旦那さん、勘違いしてござらねか」 「勘違いなの、してね」 ほして、お寺呼べていうわけで、お寺呼ばった。お寺、旦那なもんだから、檀徒総代なのしてるもんだから、手もみもみ来たわけだ。ほしてこんど、医者さま、 「てんしっきとは、おら方では、オナラのこと。てんしっきていうんだげんど、屁の出ぐあいによって、あまり腹張って仕様ないようだったらば、薬と思って、お聞きしたんだっけ」 「実は医者の方では、てんしっきとは屁のこと言うのだげんども、なんたもんだべ。お寺さまの方は…」 て。したらばお寺はからから笑って、 「ああ、ほうか、医者さまの方では屁のことをてんしっきというか。おら方のてんしっきというのは、三ケ組、五ケ組の盃のこと、てんしっきと言うんだ。ちがえばちがうもんだな」 どんぴんからりん、すっからりん。 |
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