11 名人大工

 むかし、この宿(しゅく)に、大工のうんと腕のええのいだったど。
 ある時、坂下の方、山形近在さ頼まっで行って、家一軒、木取った。いよいよたてまえすんべと思って、仮すくみすんべと思ったら、なえったて狂って、仮すくみさんね。
「困ったこりゃ。困った。材料置いて逃げんなねか」
 て。この辺では大体、材料は杉、松であったげんども、山形周辺はハンの木だった。ハンの木に対する知識は、棟梁もぜんぜんなかったもんだから、
「まず困ったこと始まった」
 て言うたらば、そこさ子どもだ遊びに来て、
「大工さん、大工さん、いつ餅()きする」
「餅まきざぁ、たてまえのことか」
「んだ。おらだ餅拾いに来っからよ」
「明日だ」
「明日なて、うそだべな。大工さん」なて言うた。
「なして?」
「柱、川さ漬けねど、こら」
「ははぁ、川さ漬けっど狂いとれるんだ」
 て、その日、まず子どもらに教えらっで、いきなり川さ漬けて、たてまえして来たんだど。んだから場所がちがえば、やっぱり、郷に入っでは郷に従えていう。わからねことあるもんだて語ってだった。どんぴんからりん、すっからりん。
>>夢のほたる 目次へ