10 一分銀

 むかし、上の山からこの辺さ魚屋(いさばや)が背負ってきた。そして魚売った。
 ほんどき、ほの魚屋が楢下のしくじりまできたら、キラキラ・キラキラ光るもの落っでだ。何だべと思って、ねつく見たれば、一分銀。一分銀といえば、ワラジ二足で三文の時代。
「誰落したんだべ」
 と思って、あたりほとり見たげんど誰もいね。んで拾わんなねと思ってワラジでふごぐってみたげんども、なかなか取んね。一案をめぐらした。ほの魚屋、
「よし、一つ、小便でとかして()ましょう」
 ていうわけで、小便たれはじめた。ほしたらば奥さんに、
「何だべ、温かくなた。赤子(んぼこ)だと思ったれば、おっつぁんだど、こりゃ。何したまず」
 て言わっだ。こっちはほに、十日ぶりも稼ぐつもりで小便たっだ。
「いや、こういうわけだ、かあちゃん」
 て語ったれば、
「つねがね貧乏して、心持まで貧乏してっからだ。ほだな一分銀も落しておくなんて、ないべな」
 て言わっで、
「いやいや、こりゃまず、失礼しました」
 ていうわけで、けりがついたど。どんぴんからりん、すっからりん。
>>夢のほたる 目次へ