1 猿蟹合戦のはじまり

 むかしむかし、じんつぁとばんちゃいたけずま。
 そして、じんつぁが百姓なもんだから、毎日毎日、山さ火野(かの)ほりに行く。火野ほりていうのは、山さ火つけて、燃やして、そして畑こつくる。平坦地作るよりもずっと効率がええがったそうだ。雑草なんかも少ないし、それから上の方からずうっと雨水が、肥料(こやし)がこけてくるもんだから、たいへん畑作としてはええがったもんだから、それをじんつぁが山さ行って、火野ほりする。
 寄る年波で、じんつぁが若衆のように行かねぐなってはぁ、だんだえ、毎年毎年こわくなって(疲れて)くる。
 ところが、ある時、ちょえっと見たら、ほの沢ガニが上手に土掘ってだ。
「ははぁ、こりゃ一つ、ガニばたのんで火野ほること考えたら、なんたべ」
 と思って、そのじんつぁが、ガニさ相談かけた。
「なかなか、お前、掘り方上手だから、おれさ手伝って()ねが。ほうすっどお前の好きなものあげてもええから」
 ていうわけで、ほうしたれば、そのガニは、
「んだら、何呉る」
「何呉るたて、まずおらだ一番貴重にしているのは、米の(めし)だ。いま、おらだ、ゴロビツというて、曲げワッパさもって来ているが、こいつ、一つずつ食うんだら、一旦、まず元気よく働いていられる。とってもええもんだ」
「はぁ、こいつ、お前ださ、あしたから握って来てけっから、何とか手伝って()ねが」
 て。ほうしたら、次の日から、わさわさとガニ出はってきたど。そしてばんちゃさ、
「ばんちゃ、ばんちゃ、あそこの火野うない上げてきた」
「あららら、ら、あらいことなぁ、じんつぁ、あそこなど二日も三日もかかったんねが」
「んだ、んだげんど、ばんちゃ、あしたからヤキメシ二つずつよけいやって呉ろ」
「ヤキメシ二つずつなて、おかしいもんだ。きっとおらえのじんつぁ、誰か他の女でも見けで、女さヤキメシ()で、あそこ手伝わせだんであんまいか」
 ていうわけで、ばんちゃ、ヤキモチやいて、こそりこそりと次の日追っかけて行ってみた。そしたれば、じんつぁ、沢コさ行ったれば、
「ガニどの、ガニどの」
 て呼ばたれば、ガニがざぁっと出てきて手伝った。ほだえして、二・三日やってるうちに、ほのガニとじんつぁが非常に(ちか)しくなった。仲ええぐなった。いろいろ一服して話の話題に出てきたんだげんども、そのガニがいうたど。
「じんつぁ、じんつぁ、まずあなたからもらって行ったヤキメシ、とってもうまいし、とっても栄養になってええようだ。実はわれわれガニの世界には、三日から七日間、厄日ていうのがある。いわゆる甲羅の脱け殻になって、蛇だら脱皮の時期がある。ほの時期ていうのは、俗にいうミソガニて、触っどペタペタするほど、やっこい体になって、ほして土手のかげでひっそり暮さんなね。外敵もこわいし、食べものもうまく食べらんね。そういう時に、じんつぁから頂いた貴重なヤキメシを村中で分けあって、その厄日の人さ、はいつ上げっだいから、何とかじんつぁ、はいつお願いさんねべか」
「よしよし、おまえだに(お前たちに)、ほだえ手伝ってもらったんだから、明日、んだらば、またヤキメシ握って行って呉れっから、ほいつお前だ厄日んどきに使え」
「ほの代り、じんつぁ、見てっど、非常にもの蒔いて、その穫んの上手だ、豆を蒔いても上手にとるし、粟蒔いても上手に穫るし、その厄日んどき、おらだの(まなぐ)玉が取れるんだ。ほの目玉蒔くと、きっと何かええもの出るかも知んねから、蒔いて育ててけらっしゃい」
 と、こういうわけで、約束して、次の日、ヤキメシ持って行って()だ。ほしてじんつぁが、ガニの厄日の目玉をまず一にぎりもらって、はいつ蒔いてみた。ところが果せるかな、はいつから芽生えてきたものが、小豆だった。んで、今でも「ガニの目から小豆が出た」なて言うことよく言うているが、実際そん時、じんつぁが握り飯と交換した目玉が小豆だ。
 ほしてこんど、そのヤキメシ持って行ったれば、つねがね山のおんつぁ、猿がはいつ見てて、欲しい欲しいと思って、頭をめぐらして、なんた知恵で、あいつ取上げたらええべて、物語り聞いっだ。ほして、
「ガニどの、ガニどの」
 て行って言うた。
「はいつ、ヤキメシ食って養生すんのもええげんども、柿の種子と交換すっど、まだええ」
「なしてだ」
「かいつ蒔いて、柿の木育てて、柿()らせっど、柿には渋ていうものある。その柿の渋をなめたり、塗ったりすっど、ガニの甲羅、一週間や十日待たねったて、その日のうちに固くなる。どうか、こいつと交換しねが」
 ていうて、交換したのが、さるかに合戦のはじまりだど。どんぴんからりん、すっからりん。
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