28 眼の薬

 むかしむかし、どこの村でも眼病ていうな流行(はや)って困ったったて。
 どの部落であったか、おっつぁんが眼病になって、眼真赤になって、ほれ、ピリピリて痛くてなんね、見ぇねぇし、まず仕事も禄だま(ろくに)さんねくて、困ったもんだ。
「こりゃ、一つ、町ちゃ行って薬でも買って()んなね」
 て、上の山さ行って、眼病の薬買ってきたわけだ。薬買っては来たげんど、家さ来てみたれば、なぜして点けっかわかんねわけだ。見たれば、目悪いから見えね。
「かか、かか、まず、なぜして()けっかわかんね。なぜ点けっか、書かったげんど、わかんね、こりゃ。お前、読まんねが」
「おれも、いろはかるた、したことあっけんども、みな憶えていねまなぁ」
「はぁ」
 二人して読んでみたれば、〈尻につける〉だけは、(けつ)の方だけは読んだど。上の方の字、(なえ)ったて読まんね。そしたれば、思い出したど、二人は。
「はぁ、上の山のお湯さ入ったれば、男湯、女湯ていう、女の家だ、こいつぁ」女の草書だ、〈め〉ていう字は…。
 実際は〈め尻につける〉て書いてあったんだげんども、〈女の尻につける〉て読んだずも、ほれ。ほして、
「かか、かか、女の尻につけるて書がった」
「ほだなぁ、こいつぁ、女の尻だな、昔から言うたもんだなぁ、アカメ、ケッツカイて、こりゃ、赤目になっど、尻かくなる(かゆくなる)。おれぁ尻などかぐないげんども、おれの尻さつけておどっつぁの眼治んなだべか、ふしぎなもんだ」
「いや、んだげんど、書かったことは、して、みんなね、裸になれ」
「まっぴるまから」
 てんのひるまから裸にならんなねわけだずも、尻さつけるには。女の尻ていえば、家には、かかしかいねもんだから、
「ようし、んでは、かか点けんぞ」
 ていうわけで、裸にして、もそもそてつけはじめたど。ほうしたれば、こちょびたくていらんね。腹さ力入っだれば、牛蒡食ったか何だかわかんねげんど、一発やらかしたずま、ほれ。ボォーとやらかしたど。ほしたればバァーッとやらかしたれば、吹っとんで薬みな(まなぐ)さ入ったて。ほして眼病治ったったど。
 どんぴんからりん、すっからりん。
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