16 無筆の知らせ

 あるところに、とっても年寄りば大事にする家あって、んだげんど貧乏で、貧乏で、
「今年の正月、なぜして年取ったらええか」
 て、
「まず、こりゃ、餅も搗いて、じんつぁさ食せらんねようだし、新巻も食せらんねし、困ったもんだ。ほんでは何とも仕様ない、裏の欅売れはぁ」
 て、こうなったわけだど。
 ほして、欅の木、庄兵衛さんという人さ売ったど。ほしたけぁ、四両二分だったど。四両二分で売って、ほいつでいろいろなもの買ってきて、盆と正月して親父さ御馳走したれば、親父は耳きこえねがったずも、ほれ、今だと字書いてもするいっだげんど、昔は字ないんだし、ほとんど通じねがったど。手まねでは分んの分っけんど、分んねな分んねがったずも、ほれ。
 ほしたけぁ、親父は今迄にない正月したもんだから、ふしぎして、息子さ、
「何かしたか」
 てきいだんだど。
 んだもんだから、ちょんちょこの毛抜いて焼いてみせたど。したら、
「ははぁ、裏の欅売ったか」
 て言うたど。
「ほだ」
「誰さ売った」
 て言うから、今度、下りまえ向いて、下の方向いて、小便たっでみせだずも、ほれ。
「ははぁ、下の庄兵衛さ売ったか」
「んだ」
「なんぼで売った」
 こんど、きんたま、べろっと出して見せだって。昔は、四寸二分でもあり、四両二分でもあったど。
「ははぁ、四両と二分か、五両はすっど思った、安いがったなぁ」
 ていうたど。親父よ。ほしたれば、嫁はよ、尻腰といて、出してみせたど。
「ははぁ、孔あいっだったか、キズものだか、んでは安いっだな」
 ていうたって、はじめて納得したったど。
 どんぴんからりん、すっからりん。
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