14 百姓と鯨

 むかし、百姓が田植えしったんだど。したれば、
「これこれ、百姓、お前だ、一反歩さ何ぼ株、突っこむなだ」
 て。ほしたれば、廻りきた侍言うたど。ほしたば、
「おらだは、何ぼ株突っこむんだか、一々わかっけんども、お侍さま、一里の道なんぼアゴだか分っか」
 ていうて、ほして、
「ははぁ、ほうか、百姓もこだえ馬鹿だ馬鹿だと思ったれば、こういうこと考えでいっか。一坪さ五十株だからて、三百坪だから一万五千株、おらだ植えっさえすっど、一日(ひして)の請けとりきまりなだ、(せん)には一人、一反歩だったずもな」
 んだから、はいつ勘定してすっどはぁ、田植、決まんのだはぁて、して一里の道ざぁ何ぼアゴだかわかんねくて、()いで何ぼアゴ、走って何ぼアゴて憶えでいねど、(いくさ)んどきに困んべしたて言うたって。
「おらだ、畑さ行ぐには、どこそこ何ぼアゴ、どこそこ何ぼアゴ、どこそこまで何日肥背負いしたり、桑背負ってきたりすっど、ワラジ何足切れるまで計算して冬のうちワラジちゃんと作っておかんなねんだ。()るだけ。んだから、よくも、ほだごんで、お侍さま、勤まっているんだな」
 てだど。ほれから、大変ほの侍が恥入って、一里ざぁ何ぼアゴ、六千アゴ。走って四千アゴて、測って研究したったど。四千アゴ行ぐには、戦のときには何(とき)かかるって、時間から何から分って、百姓に教えらっだって。
 んだから、百姓は馬鹿だ馬鹿だと思ったらば、とんでもない、よく考えっだもんだったど。
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