40 果てなしむかしむかし好きなじさまがいた。そして、「おれさ、腹いっぱい、たくさんだって言うまで、むかし聞かせた者に、おれの 娘呉っでやる」 と言うてだところぁ、その盲がそこの前さ来て呉(け)た。 立ち聞きして、 「じさま、おれ、ほんじゃ、お前のその、たくさんというほどむかし語って聞か せっから、んで、お前たくさんだていうたら、お前の娘呉れっか」 「ああ、呉れんどこでない」 ほう言うて、 「むかしあったけど。ほうしたら、川端に大きな栃の木があったけど。その栃の 実ぁいっぱいなって、秋、その栃が熟(う)んだら 、カラカラカラ、チャポン。プンコ プンコプンコ。川さ流れて、また次んな、カラカラカラ、チャポン。プンコプン コプンコ。カラカラカラ、チャポン。プンコプンコプンコ。ほして今度ぁだんだ んさかりになって来たな、カラカラカラ、チャポン。プンコプンコプンコ…」 いつまで経っても終ったてないど。「カラカラカラ、チャポン、カラカラ、チャ ポン」「まだか」「まだまだ、いっぱい、カラカラ、チャポン、カラカラ…」 ほうしてまずはぁ、じさまもたくさんなってしまった。 「もうたくさんだ」 て言うた。そしたら、 「さぁ、それではたくさんだて言うほど聞かせたから、娘呉ろ」 「そんな〝むかし〟では娘なぁ、呉れられるもんでない」 て言うたげんど、娘は、 「いやいや、約束は約束だから、おれぁこの人の嫁になって行くから」 て、ほして出かけだていうごんだ。ほうすっど座頭の坊喜んで、ほうして出か けだていうんだな。ほうして行って、ずうっと行ってマワタ橋のどこまで行った。 ほうしたら娘は途中から大きな石一つ、座頭知しゃねうちに拾って行った。ほし て、 「おら、座頭のおかたになどなるごんだら、こっから川の中さ入って死ぬはぁ」 て言うて、一二三で橋の上から川の中さその石、ダボンと投げ込んだ。ほうし たら座頭、 「お前死ぬごんだら、おらも死ぬはぁ」 て、ほこさとび込んで行って死んでしまったど。ほうしてそこで座頭のおかみ になんないで、娘は家さ帰って来たというむかしだ。どろびん。 |
(宮下 昇) |
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