39 はなし旅人、道に迷って山さ踏み込んで行ったら、一軒屋あった。そしてそこへ行っ て、「今晩一晩泊めて下さい」て言うたら一人年取った様(ざま) のわるい婆ぁさんがいた。 「ええだろう。どうか泊まって行っておくやい」て言わっでそこさ泊まった。 どんどん、どんどん囲炉裏さ大鍋かけて、そして何かゴトゴトと煮ておった。 ほしているうちに、 「おれ、隣の家まで用あって、用達して来っから、この火絶えないように、よっ く見てておくやい。この鍋の蓋とって見ないで呉ろ」 「ああ、ええどこだ、ええどこだ」 て言うて出て行ったてだ。そして待てど暮らせど帰って来ね。 「あら、いつまで経(た)ったても帰って来ない。 この鍋も水ぁ煮ひるような音する。 一体何を煮っだもんだろう」 と思ってそっと見てやろうと思って鍋の蓋とった。ところが人間の首が入った。 髪はぷわぷわと煮たからな、女だ。皺のないどこ見っど若いようだ。ところがよっ く見たら、歯が一本もない。これが本当の「はなし」ていうもんだ。 |
(宮下 昇) |
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