36 聟と嫁

 非常に恋(ほ)れた娘がいだったど。 ほして何とかしてある娘、かかにもらいたいと思って考えているうちに、 別な男に仲人が来て、話決まってしまった。 さぁ奴(やっこ)さん困ってしまった。 何とかして、あれを破談にしてやる方法はないかと思って、 いろいろ考えた末、その男どこさ、友だちでもあったから行った。 そして、
「おいおい、お前、あそこの娘、嫁もらうっていうた、んねが。もらうええげん ども、気付けろよ。あの娘などもらったら、捩きとられっかも知んね。あの娘な の、ペペコに歯ある。うっかりしてっど、お前、ボッツリ噛み切られっかも知ん ね。それだけ気付けた方ええぞ」
「本当か」「本当だ」
 ほしてまず、そこ来て、こんど娘どこさ行った。
「お前、あそこさ嫁に行くて言うた、んねが」
「ほだ、あまり好きでもないげんども、気付けろよ、あそこの大将の道具が大き くて、馬の道具なんていうもんでない。それこそ藁打棒か、大人の膝株よりも大 きいんだ。あんなもんでやらっだら、お前一ぺん勝負に片輪になるんだぞ、それ だけ気付けて行け」
 て帰って来た。
 そしていよいよ御祝儀になった。聟さんの方も嫁さんの方もモンモンとして、 その日その日送ってて、いよいよ今日御祝儀だていう。式も三々九度の盃事も終 わって、いよいよ床入りになった。
 さぁ大変だ。その聟さんもうっかりすっど噛み切られっから大変だ。何とかし てこれを試してみっだいもんだ。んだから一ぺん勝負に本物出してやって、うっ かりやらっだら片輪になっから、まずそおっと膝小僧を突(つ)出して やってみようと 思って、ソロリソロリと膝株を出してやった。こんど嫁さんの方では、その大き な物、今来っか今来っかと思って固くして小ぶるいにふるえていた。そこさ、ヌ ルヌルと大きな出て来た。股さ触ったかと思ったら、びっくりして爪立ててしまっ た。両方の手でがっしり抑えた。さぁ、野郎は噛らっじゃと思って、たまげて飛 び上がって、ほうして出て行って、ランプの傍さ行って、よっく見たら、なるほ ど歯の跡が裏表からついてだ。さぁ大変だ。こんなもの、よくもおれさ仲人して 呉っじゃもんだ。これ本物やんねでええがった。膝だから助かったげんど、本物 なんだったら、一ぺんに噛み切らっじゃ。さっそく次の日離縁してしまった。そ うして破談になって、そうすっどこんどは別な男好きだったな、待ってましたて、 早速申込んで嫁にもらったど。
(宮下 昇)
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